パンデミックで電子教材への移行が加速 – 数学における事例
世界中の大学で、デジタル教材の需要が高まっています。そこで、シュプリンガーネイチャーのイーブック ・コレクションがリモート授業をどのようにサポートできるか、下記の3人にインタビューし、それぞれの立場からお話しいただきました。
- 編集者: Loretta Bartolini(シュプリンガーネイチャー 数学書籍編集者 )
- 著者:Sheldon Axler(サンフランシスコ州立大学の数学教授)
- 図書館員:Tim Strawn(カリフォルニア州立工科大学ケネディ・ライブラリーの蔵書戦略・ディスカバリー担当エグゼクティブ・ディレクター)
1. 編集者の立場より:Loretta Bartolini(シュプリンガーネイチャー 数学書籍編集者 )
Loretta Bartoliniは、出版業界に入る前に10年以上大学で教鞭をとった経験があります。教員だった当時のことを回想して、シュプリンガーネイチャーのイーブック・コレクションによって、質、量ともにどの程度のテキストブックが入手可能になるのかよく把握しておくべきだったと語っています。
通常、教科書の採択は、教員が単独で、あるいは委員会によって決定されますが、決定には次のような要因が影響するとLorettaは話します:
- テキストブックの内容が講座の内容と合致しているか
- 他の学部からの期待
- 教育におけるベスト・プラクティス
- 講師の嗜好
- 印刷版書籍の価格
Lorettaは、自身が大学で教えていたころの経験では、教科書購入についての議論は図書館の蔵書とは関係なかったと語ります。教科書の購入について教員達が学部で議論しても、それを必ずしも図書館員に相談する必要はないと考えており、そこに教員と図書館との間に断絶がありました。ではなぜ、このような議論に図書館を参加させる必要があるのでしょうか。彼女がこれまで所属していた機関では、一機関を除くすべての機関で、シュプリンガーネイチャーの数学・統計学イーブック・コレクションを購読していました。これらの機関では膨大なイーブック・コレクションにアクセスできたことで、同時アクセス無制限、DRMフリーのダウンロード、プリント・オンデマンド(MyCopy)、機関ライセンスによる継続的なアクセスなどの利点を享受できていました。講座のテキストブックにアクセスする必要がある学生にとって、特に遠隔授業あるいは通信教育の場合などは、これは理想の環境です。Lorettaは、当時を振り返って、教科書購入に関する議論に図書館員が参加していたとしたら、選書方法が完全に違っていただろうし、多くの議論がはるかに簡単なものになっていただろうと感じています。
2. 著者の立場より:Sheldon Axler(サンフランシスコ州立大学の数学教授)
Axler教授の著書“Linear Algebra Done Right” はロングセラーとなったテキストブックで、今も評価が高い一冊です。Axler教授はパンデミック下の講義で、この自著をテキストブックとして使用するだけでなく、他のタイトルをもカタログから選書し、授業に利用したと語ってくれました。
テキストブックは、シュプリンガーネイチャーの「数学・統計学」イーブック・コレクションの全体の21%にしか過ぎませんが、ダウンロード数では全体の45%を占めています。シュプリンガーネイチャーの数学のテキストブックは、純粋数学と応用数学のあらゆる分野をカバーし、そのレベルも、学部生からドクターや研究生に至るまで多岐に渡っています。たとえば、もっとも有名なブックシリーズには、”Undergraduate Texts in Mathematics”と”Graduate Texts in Mathematics”があります。
Axler教授は、シュプリンガーネイチャーの数学タイトルの著者の一人です。教授の著書、“Linear Algebra Done Right“は広く支持されている一冊で、340もの大学で教科書として採用されています。Axler教授はまた、自著“Linear Algebra Done Right“を補足する50本の動画を制作して、YouTubeで無料公開しています。動画の総試聴時間を、2019年の2月から2020年の2月までと、その翌年の同時期とを比較してみると、COVID-19によるパンデミックの影響が大きかったせいか、1年間の試聴時間数が59%も増えていることがわかりました。「明らかにパンデミック前よりも学生が動画を視聴している」とAxler教授は指摘しています。
Axler教授によると、書籍は印刷版を選ぶか電子版を選ぶかで、幾つかの点について検討が必要です。
たとえば費用です。教員が教科書を選書する際に、検討材料として(学生が負担する)費用が深刻な問題になってきていると言うのです。かつては教員が教科書のコスト要因について語ることはありませんでしたが、今は、教員がコストを気にするようになりました。「電子書籍は一般的に印刷版よりも値段が安く、たとえば化学の教科書は非常に高価で、200ドルを超えることも少なくありませんが、電子版であればそこまで高価ではありません」。
また、費用以外の点でも、イーブックは、たとえばコンテンツ内や外部資料へのリンクなど、印刷版にはない多くの素晴らしい機能も備えています。
イーブックのもう一つの特長として可搬性をあげることができます。学生はポータブルデバイスを使用することで、どこにでも持ち出すことができ、いつでもその電子書籍にアクセスできるのだとAxler教授は語っています。
3. 図書館員の立場より:Tim Strawn(カリフォルニア州立工科大学ケネディ・ライブラリーの蔵書戦略・ディスカバリー担当エグゼクティブ・ディレクター)
Tim Strawn氏は、自身が蔵書戦略・ディスカバリー担当エグゼクティブ・ディレクターをつとめるカリフォルニア州立工科大学では、カリキュラム・サポートの一環として、イーブック導入を進めていると語りました。
学生が教科書にアクセスできるかどうかという問題は、このパンデミック下、殊に注目されてきました。Strawn氏は、多くの大学図書館は、教科書を含めたイーブックやデータベースなどへ24時間365日のアクセスを実現しており、カリキュラムの支援を行うための実務やワークフローをすでに実践しているはず、と語っています。
Strawn氏によると、かつて多くの大学図書館は、コースリザーブ用の資料は蔵書するが、それ以外、講座教材(コースマテリアル)と教科書は購入しないという方針でした。
CSU(カリフォルニア州立大学)の他のキャンパスは、学生への基本的なサービスとして、教材を購入していますが、キャンパスによって、教科書を印刷版とイーブックのどちらで購入するか、また、コースリザーブのような他の教材を提供するかについて、そのアプローチがいまだに大きく異なっています。Strawn氏は、このような方針や過去の慣行の多くが見直されてきていると感じており、CSUでは、パンデミックが起こらなくても、eTextbooks(電子版教科書)や講座教材の提供の方向に進んでいたとみています。同氏は、図書館を中心としたカリキュラムの支援プログラムやアイデアをもっと推進するよう働きかけています。
Strawn氏は11年前、CSUに勤めはじめました。ちょうどこの頃、CSUでは、図書館利用データ、キャンパス調査、質的・量的データの両方に基づいて、何を優先的に蔵書するかなどを含めた蔵書戦略を劇的にシフトさせました。カリキュラムと研究を支援するためには、進化する情報ニーズに対応することが必要で、そのためには今までの慣行を変えなければならないという事実をこれらのデータが示していたのです。
「簡単に言ってみれば、私たちは印刷から電子の世界へ迅速にシフトしたわけです」とStrawn氏は語っています。
シュプリンガーネイチャーの「数学・統計学」イーブック・コレクション
Mathematics and Statisticsコレクションは、代数学、解析学、幾何学、確率・統計学の主要テーマを網羅するだけでなく、近年ますます複雑化する計量ファイナンス(quantitative finance)領域のタイトルも収載しています。さまざまなブック・タイプがあり、また非常に長く利用されるタイトルが多く含まれ、現在14,000点以上出版されています。