エネルギーは人間社会にとって極めて重要です。エネルギー利用は経済を牽引し、人々の多様なニーズに対応しています。そのため、安価なエネルギーへの確実で信頼できるアクセスは、世界のほぼすべての国で政策上の優先事項とされています。その一方で、エネルギーの生産と利用によって、人為的な気候変動、生態系の劣化、人間の健康やウェルビーイングへの影響等、持続可能性に関わる直接的・間接的なインパクトがさまざまな形で引き起こされています。そして、これらの直接的・間接的な影響の多くは不平等な形で及ぼされており、持続不可能なエネルギー生産・利用方法によって最も深刻な影響を受けるのは貧しい国々やコミュニティです。そのため、多くの学者、政策立案者、専門家は、持続可能な開発を達成するためにはクリーンで安価なエネルギーシステムへの移行が重要と考えています。
持続可能な開発におけるエネルギーシステムのこのような重要性から、エネルギーはSDGsの中では特にSDG7(エネルギーをみんなにそしてクリーンに)の目標が掲げられています。そして、エネルギーシステムは、SDG9(産業と技術革新の基盤をつくろう)、SDG12(つくる責任つかう責任)、SDG13(気候変動に具体的な対策を)など、他の複数のSDGと強く関連しています。現在のエネルギーシステムが、進行中の気候変動、生態系の劣化、持続可能な生産と消費のパスウェイに重要な影響を与えていることから、これらのSDGsの接点において、その関連性を理解し、解決策を講じるための学際的知識の創出が急務となっています。
SDGs達成のためには、学術界、ビジネス界、政策立案者、市民社会が、垣根を越えてトランスディシプリナリー(超学際的)な方法で緊密に連携する必要があります。東京大学は、国際的にも最先端のエネルギー関連研究を行っており、この専門性をさらに高めるために、エネルギー総合学連携研究機構の設立といった学際的取り組みにも着手しています。また、Nature Energy誌やさまざまなSDGs関連の出版物を発行しているシュプリンガー・ネイチャーは、全ての潜在的なステークホルダーをサポートするために、多様なコミュニティやセクターでエビデンスに基づいたインパクトのあるサステナビリティ(持続可能性)研究の発見と普及を進めるうえで重要な役割を果たしています。
このような学際的な協力関係に焦点を当て、更なる前進と影響力の向上を目指し、東京大学とシュプリンガー・ネイチャーは2022年3月29日にシンポジウム(言語:英語、同時通訳有)を開催いたします。本シンポジウムでは、エネルギーシステムとSDGsの接点で活躍する日本の著名な研究者をお招きして、これらの多面的な現象についての研究を紹介し、社会に関連し且つ影響を与えうる効果的な解決策について積極的に議論したいと考えています。皆さまのご参加をお待ちしております。
脱炭素への移行のためのエネルギー・シナリオ(東京大学未来ビジョン研究センター 准教授 杉山 昌広)
ステークホルダーからのインプレッションによってエネルギー関連の学術研究をより豊かなものに(京都大学大学院地球環境学堂 准教授 グレゴリー・トレンチャー)
破壊的な社会発展に向けたグリーン・持続可能なエネルギー転換(東京大学生産技術研究所 准教授 ムハンマッド・アズィッズ)
エネルギーシステムとSDGs研究をサポートするネイチャー関連誌(Nature Energy チーフ・エディター ニッキー・ディーン)
1993年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了・博士(工学)、同生産技術研究所や理化学研究所での勤務を経て、2007年東京大学生産技術研究所教授、2015年同所長。2018年東京大学大学執行役・副学長、2019年同理事・副学長(財務、社会連携・産学官協創担当)を務め、2021年より同総長に就任(現在に至る)。 その他、2005年から2007年まで文部科学省参与、2007年から2014年まで日仏国際共同研究ラボ(LIMMS)の共同ディレクター、2017年から2019年までCBMS(Chemical and Biological Microsystems Society)会長、2021年より総合科学技術・イノベーション会議議員(非常勤)。 専門分野は応用マイクロ流体システム、海中工学。
1990年 東京大学大学院工学系研究科電気工学専攻博士課程修了。工学博士。同大学資源開発工学科助手を経て、1994年1月東京大学資源開発工学科(現システム創成学科)助教授に着任。1999年4月より東京大学大学院新領域創成科学研究科、環境学専攻の助教授に着任。2003年12月同教授に昇任。2011年4月同大学院工学系研究科電気系工学専攻教授に着任。2021年7月1日に発足したエネルギー総合学連携研究機構の初代機構長を兼任している。
エネルギーシステムと地球環境問題対応策に関する研究に従事。エネルギー・資源学会、電気学会、日本エネルギー学会等会員。各種学会の論文賞、貢献賞等の他、科学技術振興機構理事長技術賞、東京都文京区功労者表彰(地球温暖化対策地域推進協議会委員)、産業標準化事業表彰(経済産業大臣表彰)等を受賞。
1984年京都大学工学部卒、1989年京都大学工学研究科博士課程修了。工学博士。京都大学助手、東京大学助教授を経て、2006年東京大学先端科学技術研究センター(RCAST)教授に着任。2010~2016年同センター附属産学連携新エネルギー研究施設長。2012年より東京大学教養学部附属教養教育高度化機構(KOMEX)環境エネルギー科学特別部門長。2016年より現職。2019年より東京大学サステイナブル未来社会創造プラットフォーム代表。2020年より東京大学工学系研究科化学システム工学専攻兼担。
ペロブスカイト太陽電池や蓄電機能内蔵太陽電池など、再生可能エネルギー導入拡大に役立つ次世代太陽電池の研究を進めている。2019年科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞。
16年以上にわたりNature関連誌の編集者を務め、上海にNature Publishing Group(当時)初の中国本土のオフィスを設立し、様々なNature関連誌の現地編集者のチームを結成。その間、アジア各地で進められている研究を学ぶため数多くの機関を訪問。また、研究のオープン性と透明性を高めることによるインパクトやメリットを研究者と共有し、世界最高峰の学術誌に研究を掲載するためのアドバイスの提供に努めた。
現在、Journal Policy & Strategyディレクターとしてシュプリンガー・ネイチャーのジャーナルポートフォリオ全体におけるポリシーと戦略の責任者であると同時にSDGプログラム運営グループの議長として国連の持続可能な開発目標達成に貢献する研究・研究者への支援を推進している。
九州大学の水素エネルギー国際研究センター、工学府水素エネルギーシステム専攻を兼務。
アメリカUCデービスで、Ph.D. in Chemistryを取得。その後、企業や国研での研究経験、名古屋工業大学助教を経て、九州大学に准教授として2011年に着任。
水素をつくるところから、貯める、使うところまで網羅的な水素エネルギーの研究に従事。最近は、再生可能エネルギーと水素エネルギーの融合の観点から、その核となる水電解技術開発に注力。
東京大学サステイナビリティ学連携研究機構特任研究員、一般財団法人電力中央研究所社会経済研究所主任研究員を経て2014年4月より東京大学政策ビジョン研究センター講師、2017年4月より同准教授、2019年4月より現職。気候変動に関する政府間パネル (IPCC) 第6次評価報告書第3作業部会の主執筆者。
専門は気候政策のシナリオ分析、公衆関与の観点に基づく気候工学のガバナンスなど。近著に『気候を操作する 温暖化対策の危険な「最終手段」』(KADOKAWA)。
米国マサチューセッツ工科大学Ph.D.(気候科学)および修士(技術と政策)。
2014年東京大学大学院新領域創成科学研究科で博士課程(サステナビリティ学)修了、2014年〜2016年米国クラーク大学大学院国際開発地域環境助教を経て、2017年〜2021年東北大学環境科学研究科准教授。専門は主に社会科学の観点よりエネルギー政策およびエネルギー・サステイナビリティ転換を加速させるためのガバナンス(舵取り)。現在、燃料電池自動車・電気自動車の生産・普及の促進戦略、持続可能性を阻害する技術・物質・産業活動の段階的廃止(フェーズアウト)に向けた政策の国際比較分析、脱炭素に向けた政策および企業戦略、社会的課題の解決を目指したスマートシティに関して研究。
2008年~2009年 セイコーエプソン株式会社で機械設計者として勤務後、2009年~2011年 東京大学生産技術研究所 特任研究員、2011年~2015年 東京工業大学 特任助教、2015年~2019年 東京工業大学 特任准教授を経て、2019年4月より現職。
2004年に九州大学工学部機械・航空工学科を卒業、2006年に同大学工学府知能機械システム専攻の博士前期課程(修士)を修了、2008年に同大学工学府知能機械システム専攻の博士前期課程(博士(工学))を修了した。
主な研究分野としては先進的なエネルギー変換システムであり、発電、再生可能エネルギー、プロセスモデリング、スマートグリッド、電気自動車、バッテリー、水素製造、貯蔵・輸送、利用などの研究に取り組んでいる。
オックスフォード大学で凝縮系、原子、レーザー物理学で博士号を取得後、ポスドクを経て、2011年にNature Publishing Group(当時)に入社。Nature Communicationsでシニアエディターとチームマネージャーとしてキャリアを積んだ後、2015年からNature Energyに携わり、翌年に同ジャーナルを創刊。Nature Energy創刊時よりチーフエディターを務めている。
アントワーン・ブーケはシュプリンガー・ネイチャーのヴァイス・プレジデントとして、東京を拠点に日本、東南アジア、オセアニアのインスティテューショナル・セールスを担当している。アジア太平洋地域の学術出版界で25年以上の経験を持ち、シュプリンガー・ネイチャー(日本)の代表取締役社長も務める。これまでアジア地域の出版プログラムを指揮したほか、日本で医学情報事業を立ち上げた。また書籍のコミッショニング・エディターとしての経験もある。オーストラリアで生まれ、ブリスベンのグリフィス大学卒業。東京大学で博士号(物理学)を取得。
専門は国際法学・環境法学。京都大学法学部卒業。一橋大学大学院法学研究科博士課程単位修得退学。龍谷大学教授、名古屋大学大学院教授、東京大学サステイナビリティ学連携研究機構(IR3S)教授などを経て、2019年4月より東京大学未来ビジョン研究センター教授。日本学術会議会員、2020年10月より日本学術会議第25期副会長(国際担当)。ロンドン大学客員研究員(2000〜2001年)。
国際環境条約に関する法的問題、気候変動とエネルギーに関する法政策などを主な研究テーマとする。
中央環境審議会会長、東京都環境審議会会長、再生可能エネルギー買取制度調達価格等算定委員会委員長、アジア開発銀行の気候変動と持続可能な発展に関する諮問グループ委員、国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)評議員なども務める。『Sustainability Science』誌、『Climate Policy』誌の編集委員。
主な編著書に、『環境規制の現代的展開』(大久保規子ほかとの共編著)、『気候変動政策のダイナミズム』(新澤秀則との共編著)、『気候変動と国際協調』(亀山康子との共編著)など。2018 年度環境保全功労者環境大臣賞受賞。