検索エンジンが登場して間もない頃、インフォプロたちはユーザーがワールドワイドウェブの荒野を探検する際の、通訳兼ガイドとしての役割を果たさなければならなかった。そして、利用者のクエリーを強化して絞り込むカスタム検索エンジンを設計して、頻繁に検索されるトピックの研究ガイドを構築し、内部リソースにアクセスするための検索ツールを開発した。
今日もインフォプロたちは、単にアクセス数の多いウェブサイトの開発をめざすのではなく、最良の答えを見つけ出すという図書館本来の理念を軸にして、新しい知識発見ツールの設計に携わっている。広告付きのサーチエンジンは、ユーザーの活動を追跡・収益化する金銭的なインセンティブがあるだけではなく、情報を脱文脈化してその正確性と信頼性を判断する手掛かりを切り離し、ウェブサイトの深淵から単一のページを浮かび上がらせる傾向がある。
カスタムサーチエンジンを構築し、LibGuidesを開発した実績があることから、インフォプロたちがAIを応用した新たな知識発見ツールの設計に携わることもあり得る。最良の情報を提供するというインフォプロのフォーカスを新しいツールに活かすことも可能だ。
アルゴリズム解析による株取引や、コンピューターを応用した医用画像診断など、ハイエンドな環境で利用されることの多いAIだが、どんな規模の情報センターでもそれぞれの組織内で果たすべき役割を見つけ出すことができるだろう。公共図書館はメイカースペースを拡大してバーチャルリアリティーのラボを設置したり、機械学習ツールに関するワークショップを開催したりすることができる。組織内の情報センターはIT部門と協働し、特定のユーザーグループにとって有用なオープンソースのデータセットやテキスト・データマイニングツールを識別し、そのキュレーションを行うことができる。
最近、ロード・アイランド大学が図書館内にAIラボを開設し、学生や教職員、研究者を対象に、データマイニングやロボット工学、機械学習と関連テクノロジーのほか、それらのテクノロジーが持つ倫理的な意味について学習する機会を提供している。同様のモデルは組織の規模に応じて、さまざまな図書館の環境に応用することができる。
オンラインカタログや統合図書館システムに、レコメンドシステムのアルゴリズムを組み込めば、図書館リソースの発見可能性を強化することも可能だ。小規模な情報センターや図書館員も、AIの概念やアプリケーションをユーザーに提供することができる。まずは内部向けのブログやウェブページを作成し、顧客に関心を持ってもらえそうなAI関連の記事やビデオのリンクを掲載するのも良いだろう。TED Talksだけでも人工知能に関するトピックが約300もあり、これ以外にもポッドキャストやオンラインコースなど、専門外の人たちを対象にしたリソースが数多く存在する。「AI For Everyone(みんなのAI)」や「Machine Learning 101(機械学習入門)」など、探究心を刺激するようなテーマで気軽な昼食会やVR会議を行うこともできる。 無料または低料金のIBM Watson Assistantを利用して図書館のチャットボットを開発し、比較的易しいAI導入例のデモンストレーションをすることも可能だ。
情報源を評価することはインフォプロの重要なスキルである。図書館の蔵書のためにリソースを選び、ユーザーに最良の費用対効果をもたらしてくれるデジタルコンテンツを購読することと同様に、インフォプロは研究グループと協力し、機械学習やビッグデータのプロジェクトに最適なデータセットを選定することができる。情報源やリソースの質を評価するテクノロジーに精通しているインフォプロならば、使われているデータがその意図に則って正確に現実の世界に反映されるようにできるはずだ。インフォプロは、どのようにしてデータセットがつくられ、データが収集されたのか、どこにバイアスが潜んでいるのか、そして、もっと新しいデータセットが入手可能かどうかに注目する。
インフォプロは、AIテクノロジーをデジタルコレクションに導入する戦略的なポテンシャルを評価することができる。たとえば、国勢調査データや歴史的価値のある手書き原稿、ニュース記事、公文書などの歴史的コンテンツは、テキスト・データマイニングツールを応用した新しい方法で分析すれば、これまで知られていなかった文化や社会、歴史のトレンドを浮き彫りにできるだろう。地理的な位置情報を追加し、固有名詞を特定し、時間的な相関関係を識別するための日付設定ができる検索ツールを応用すれば、既存のコレクションを強化する機会を見出すことができる。
AIプロジェクトを立ち上げる際、インフォプロはユーザーのプライバシーとセキュリティーの問題に関する組織内のディスカッションをリードすることもできる。いまやAmazon Echoなどの家庭用スマートスピーカーで録音された内容が殺人事件を解決するための捜査対象になり、個人データの閲覧や利用に関する懸念は単に理論的なものではない。EUの一般データ保護規則(General Data Protection Regulation: GDPR)が制定され、他の地域でもプライバシーに関する規則が計画・制定されるようになると、個人データに対する意識が高まり、どんな情報が収集され、その情報が何に使われるのかに関心が集まるようになった。組織内の情報の流れを独自の視点で観察できるインフォプロならば、AIアプリケーションに使われているデータセット内の個人情報の保護を提唱することができる。