私たちは今、人新世と呼ばれる時代に生きています。人類は過去2世紀にわたり、地球を大きく変化させてきました。1950年代以降の人間活動の急激な加速は、生態系と人間社会に取り返しのつかないような深刻な結果をもたらしました。一方で、この急速な変化は経済のグローバル化、技術革新、連結性に拍車をかけ、グローバル・サウスの何十億という人々の食糧安全保障と貧困削減に貢献しました。しかし、他方では、気候変動の深刻化、生物多様性の損失、環境汚染といった莫大な環境コストを伴う結果にもなりました。そのうえ、既存の社会経済的不平等や不公正を悪化させ、新たな不平等や不公正をも生み出しています。
現在、プラネタリーヘルス(地球の健康)が深刻な危機に瀕していると懸念されています。人間社会の健康と、私たちが依存している自然システムのバランスが更に損なわれれば、私たち自身と将来の世代に壊滅的な事態をもたらすことが危惧されています。
人類と生態系の健康のために、人間活動を変革する包括的なアクションを編み出し、実行に移すことを求める声が高まっています。その一例として、健康的な食生活を実現すると同時に、気候変動、汚染、生物多様性の損失を緩和するために、食生活の変化と食料システムの変革をもたらす取り組みが世界中で行われています。また、気温上昇や都市部での洪水など、特に高齢者など社会的弱者へのインパクトが大きい気候変動の悪影響を軽減するための対応や緩和策も進められています。
このような課題解決を目的とする取り組みの効果が社会的弱者を含むすべての階層に確実に行きわたるためには、対応施策が不平等の縮小につながるように設計されるべきです。特に、急速に発展するグローバル・サウスにおいて、不十分なガバナンス、限られた社会的セーフティー・ネットや公的インフラ不足が、人口の大半が健康的な環境で健康的な生活を送ることを困難にしているため、効果的な解決策の策定がさらに重要になっています。
こうした問題意識から、2024年のSDGsシンポジウムでは、プラネタリーヘルスとサステナビリティの交差する領域を探求します。今回のシンポジウムでは、SDG3(良好な健康と福祉)、SDG13(気候変動対策)、SDG15(陸の豊かさ)、SDG2(飢餓ゼロ)の接点における研究が焦点となります。 こうした学際的なつながりを明らかにするため、東京大学とシュプリンガーネイチャーは、2024年2月27日にシンポジウムを共催します(使用言語:英語)。本イベントは、UTokyo Compassの戦略に沿って、インパクトのある革新的なサステナビリティ関連研究を行おうとする若手研究者にとってアイデアや視点を提供する場となります。
今回のシンポジウムでは、プラネタリーヘルスとSDGsの接点で活躍する国内外の著名な研究者、ならびに学生や若手研究者を招き、それぞれの研究がどのようにこれらの多面的な現象を説明し、社会的インパクトに富んだ公平な解決策を生み出すことができるのか、積極的な議論を行います。
2024年1月24日
会場の収容人数に達したため、会場参加のお申込みは現在受け付けておりません。
会場参加を希望されるお客様は、2月20日以降に本サイトをご確認ください。お席がご用意できる場合は、申込フォームを再開いたします。
ご迷惑をおかけいたしますことをお詫び申し上げます。
Time | Agenda |
14:30 – 14:40 | 開会の辞福士 謙介(東京大学未来ビジョン研究センター センター長、教授) アントワーン・ブーケ(シュプリンガーネイチャー・ジャパン 代表取締役社長) |
14:40 – 15:20 | 基調講演 1プラネタリーヘルス: 何、なぜ、どうして? 渡辺 知保(長崎大学教授、同プラネタリーヘルス学環長) 基調講演 22030年のSDGs達成に向けた中間点を迎えての課題および教訓と、プラネタリーヘルスへの影響 マグダレーナ・スキッパー(Nature編集長、Nature Portfolioチーフ・エディトリアル・アドバイザー) |
15:20 – 16:05 | Plenary 1都市における熱曝露の健康リスクと対応 キム・ユンヒ(東京大学 准教授) Plenary 2システム思考から見た健康的で持続可能な食事の課題 西 信雄(聖路加国際大学大学院公衆衛生学研究科・研究科長、教授) Plenary 3プラネタリーヘルスにおける超学際研究への挑戦:地域実践型のヘルシーエイジングに向けて 鹿嶋 小緒里(広島大学 准教授) Plenary 4プラネタリーヘルスに関するJICAの取組 西村 恵美子(独立行政法人国際協力機構(JICA)人間開発部グローバルヘルスチーム課長) |
16:05 – 16:20 | 休憩 |
16:20 – 17:30 | パネルディスカッション(全登壇者)進行役春日 文子(長崎大学 教授、Future Earth国際事務局日本ハブ事務局長) |
17:30 – 17:40 | 閉会の辞藤井 輝夫(東京大学総長) |
17:50 - 19:30 | ネットワーキングイベント 学生ポスターセッション |
東京大学未来ビジョン研究センター センター長、教授
東京大学未来ビジョン研究センター センター長、教授。東北大学土木工学科卒業。米国ユタ大学博士課程を経て東北大学助手、アジア工科大学助教授、東京大学助教授を経て2013年より現職。土木環境工学を専門とし、サステイナビリティ学を日本で立ち上げたメンバーのひとり。地球と地域の環境問題、気候変動適応と緩和、地域エネルギーマネジメント、排水・廃棄物処理、土木環境インフラ、健康リスクマネジメン トに関する研究を日本と海外の両方で進めている。
シュプリンガーネイチャー・ジャパン 代表取締役社長
アントワーン・ブーケはシュプリンガーネイチャーのヴァイス・プレジデントとして、東京を拠点に日本、東南アジア、オセアニアのインスティテューショナル・セールスを担当している。アジア太平洋地域の学術出版界で25年以上の経験を持ち、シュプリンガーネイチャー・ジャパンの代表取締役社長も務める。これまでアジア地域の出版プログラムを指揮したほか、日本で医学情報事業を立ち上げた。また書籍のコミッショニング・エディターとしての経験もある。オーストラリアで生まれ、ブリスベンのグリフィス大学卒業。東京大学で博士号(物理学)を取得。1994年から日本在住。
長崎大学教授、同プラネタリーヘルス学環長
東京大学医学系研究科教授(人類生態学分野)から国立環境研究所理事長(2017-2021)を経て長崎大学教授(2021〜現在)、同プラネタリーヘルス学環長。東京大学名誉教授。日本健康学会理事長、環境科学会会長、学術会議連携会員(第2部)。Society for Human Ecology 副会長III、Ecological Society of AmericaのHuman Ecology section 座長。保健学博士(東京大)。化学物質毒性の修飾要因、途上国の環境保健、持続可能性と健康など、一貫して人間集団と環境との関わり方をテーマとして研究。
Nature編集長、Nature Portfolioチーフ・エディトリアル・アドバイザー
Natureの編集長であり、Nature Portfolioのチーフ・エディトリアル・アドバイザー。Nature Reviews Geneticsのチーフ編集長、Natureの遺伝学とゲノム科学分野のシニアエディター、およびNature Communicationsの編集長を務め、多くの編集および出版の経験を積んできた。メンターシップ、研究公正の推進、そして研究における協力と包括性に情熱を注いでいる。研究において充分に評価されていない少数派のグループを促進したいという想いの一環で 2018年に共同創設者として、女性の若手研究者を対象としたNature Research Inspiring Science Awardを立ち上げた。ケンブリッジ大学(英国)で遺伝学の博士号を取得。
東京大学 准教授
韓国ソウル国立大学大学院公共健康医学生物統計学博士課程修了・博士(公衆衛生学)、韓国ソウル大学校医科学予防医学部博士研究員、長崎大学熱帯医学研究所助教・博士研究員を経て、2018年東京大学大学院医学系研究科准教授就任、現在に至る。2019年東京大学卓越研究員、2019‐2020年アジア大学連盟奨学生賞受賞。環境疫学者であり、研究テーマは、気候変動と変動性、大気汚染、複数の国にまたがる住民の健康など。
聖路加国際大学大学院公衆衛生学研究科・研究科長、教授
聖路加国際大学大学院公衆衛生学研究科・研究科長、教授。1988年大阪大学医学部医学科卒業。1992年大阪大学大学院医学研究科博士課程修了(博士(医学))。2012年同志社大学大学院ビジネス研究科修了(ビジネス修士(専門職))。岩手医科大学衛生学公衆衛生学助教授、放射線影響研究所疫学部副部長、医薬基盤・健康・栄養研究所国際栄養情報センター長等を経て2023年4月より現職。2015年から2020年まで日本公衆衛生学会編集委員長。社会疫学、システ ム・ダイナミクスを専門とし、システム思考をもとに公衆衛生課題の解決に取り組む。
広島大学 准教授
広島大学准教授。広島大学公衆衛生学講座に2010年より助教として赴任し、2022年からはプラネタリーヘルス・イノベーションサイエンス(PHIS)センター長を併任している。また優れた研究業績を挙げ、研究力の向上に貢献した者に送られる学長表彰(Phoenix Outstanding Researcher Award)を受賞している。研究面では、大気汚染、環境保健として国際保健の分野を中心に疫学研究を行っているが、近年は、ヘルシーエイ ジングとプラネタリーヘルスを組み合わせた学際融合研究プロジェクトを新たに立ち上 げて取り組んでいる。博士(環境学、岡山大学)
独立行政法人国際協力機構(JICA)人間開発部グローバルヘルスチーム課長
独立行政法人国際協力機構(JICA)人間開発部グローバルヘルスチーム課長。同部新型コロナ ウイルス感染症対策協力推進室副室長を経て現職。JICAの保健協力プログラム、特に健康危機対応を所管。2003年JICA入構後、主に東南アジアやアフリカにおける保健分野協力(保健シス テム強化、母子保健、健康危機対応)に従事。2009-2012年JICAタンザニア事務所で保健プログ ラム担当、2007-2009年、米国国際開発庁(USAID)国際保健局に出向し、保健分野の日米連携促進に従事。ロンドン大学衛生熱帯医学校「途上国における公衆衛生」修士号取得。
東京大学総長
1993年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了・博士(工学)、同生産技術研究所や理化学研究所での勤務を経て、2007年東京大学生産技術研究所教授、2015年同所長。2018年東京大学大学執行役・副学長、2019年同理事・副学長(財務、社会連携・産学官協創担当)を務め、2021年より同総長に就任、現在に至る。その他、2005年から2007年まで文部科学省参与、2007年から2014年まで日仏国際共同研究ラボ(LIMMS)の共同ディレクター、2017年から2019年までCBMS(Chemical and Biological Microsystems Society)会長、2021年より総合科学技術・イノベーション会議議員(非常勤。専門分野は応用マイクロ流体システム、海中工学。)
長崎大学 教授
Future Earth国際事務局日本ハブ事務局長
長崎大学大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科/プラネタリーヘルス学環教授 Future Earth国際事務局日本ハブ事務局長。東京大学大学院博士課程修了、農学博士。獣医師。長年、厚生労働省において食品衛生の研究やリスク評価に従事し、WHOやFAOのプロジェクトにも参画。2023年4月に長崎大学に着任する以前は、国立環境研究所特任フェロー、東京大学客員教授。2011-14年、日本学術会議副会長。Future Earth国際事務局の発足から参画し、2015年より日本ハブ事務局長として、サステナビリティサイエンスや超学際研究の推進に関わる。