シュプリンガーネイチャー・イーブックス 図書館員の声 : 東洋大学図書館事務部図書事務課 川島 由美子 様
日本の大学図書館では学術情報の電子化が普及し、イーブックの利用推進が重要な課題となっています。また、学内の著者とその著作情報を配信することが、図書館員の研究支援における役割として注目されています。
このたび、先生方の著作を紹介するWebコンテンツ「教員著作」をはじめ、「電子ブックお役立ちページ」や「法学部図書館NAVI」など、図書館に関連したWebコンテンツを展開することで利用者と著者の支援をされている東洋大学図書館事務部の川島由美子様(以下敬称略)に、イーブック導入のメリット、プロジェクトの内容とその効果、今後の目標などについてお話を伺いました。
Q.貴学でイーブックの導入を決められた動機をお話しいただけますか。
川島:本学では平成24年度( 2012年度)に初めて、白山キャンパスで導入されました。目的は書架狭隘問題解消の一助とし、利用サービスの促進に繋げることです。現在、多くのシュプリンガーネイチャーのイーブックコレクションを契約していますが、それらは主に赤羽台にある情報連携学部の希望によるものです。情報連携学部には、紙の本を置いた「図書館」がないため、電子ジャーナル・電子ブックを積極的に利用しています。
Q.東洋大学様には、多くのシュプリンガーネイチャー・イーブックをご購入いただいています。その理由は何ですか。
川島:やはり、先生方からシュプリンガーネイチャーは世界的に代表的な科学出版社であることが挙げられました。これは情報連携学部の教員に限らず、他学部の多くの教員から、ご自身が学生時代からシュプリンガーの図書やジャーナルを活用した経験があり、その有用性には高い信頼を寄せている、という声があがっています。
Q.イーブックを導入される際に課題はありましたか?
川島:電子ブックに限らないですが、新たな電子資料を導入する際は、資料・備品としての登録方法や利用者への周知方法の確立、そして私たち図書館職員の資料に対する勉強時間の確保が必要になります。通常業務の中で新規の資料品目を取り扱うのは苦労します。まだまだ克服したとは言えませんが、今後は電子資料への理解を回りにも広げていくために、課内広報も必要なのかな、と感じています。
Q.貴学では主に、どのような方がイーブックを利用されていますか?
川島:情報連携学部の教員に聞いてみたところ、今現在のイーブック利用者は先生方だそうです。ただし今後は、講義や学生の卒業研究に伴い、関連テーマの学生が積極的に電子ブックを利用することが予想されています。
Q.イーブック導入の学内周知と利用者の増加に工夫していらっしゃることはありますか?
川島:本学独自の取り組みだと感じているのが、和書の電子ブックをテーマごとにWebページにまとめて掲載していることです。今掲載しているのは「レポート・論文の書き方」と「語学学習」「リサーチ」ですが、今後「留学生向け」「就活関連」のページも作成予定です。これらはWebページでまとめて配信することにより、内容の追加・修正がいつでも可能であり、情報に即時性を持たせることができます。また、語学学習に関する電子ブックなどは、出版社のHPから読み上げの音声データがダウンロードできるリンクも掲載することで、利用者がより効果的に電子ブックを活用することが出来ます。また紙媒体と異なり、Webページは利用統計が取得できるので、ページの閲覧回数・閲覧時間帯・閲覧デバイスなど、利用者の状況を把握して、学内周知活動の成果を可視化することが可能です。「海外の出版社の電子ブック」ページでは、出版社ごとにおすすめの電子ブックと、その便利な機能を紹介し、利用者増加に努めています。
【イーブックの広報例】
東洋大学図書館ウェブサイトの「海外の出版社の電子ブック」では、契約しているシュプリンガーネイチャー・イーブック コレクションの紹介や、SpringerLinkの便利機能が、わかりやすく掲載されている。
Q.シュプリンガーネイチャー・イーブック導入について、図書館利用者のご感想はいかがですか?
川島:内容の充実度はもちろんなのですが、教員からはプラットフォームの利便性の高さに対する評価があがりました。ジャーナルとの相互検索が可能な部分もそうなのですが、必要な情報にアクセスが容易であるとのことです。シュプリンガーネイチャーのイーブックは、スマートフォンやタブレット等、様々なデバイスからも利用可能であったり、マニュアルを「利用端末編」という形で個別に用意していたり、YouTube動画でもマニュアルが用意されていたりと、Webを積極的に利用するユーザーへのサポートが手厚いと感じています。ちなみに本学のシュプリンガーネイチャー・イーブック利用数を調べたところ、やはり情報連携学部の希望により導入したComputer Scienceコレクション(情報科学)のタイトルが多い印象です。
東洋大学が実感したイーブック導入のメリット
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Q.今後のイーブック活用に関する展望や、貴学の目標がありましたら、ぜひご紹介ください。
川島:もちろん、電子ブックの利用者を増やしたいと思っています。そのために広報活動は必要不可欠です。その中で今後の目標が2つあります。
1つ目は「電子ブックの見える化」です。これまで電子ブックの広報活動を通じて課題だと感じたのが電子ブックの存在を利用者に知ってもらうこと、つまり「電子ブックの“見える化”」でした。紙の図書と違い、電子ブックは図書館の書架には存在しません。ですから利用者は、主にWebからでしか「電子ブックが在る」ことを知る手段が無いのです。少しでも利用者に「電子ブックが在る」ことを気づいてもらうために、先にお話しした附属図書館ホームページでの広報活動だけでなく、東洋大学の学生・卒業生に配布する東洋大学報「TOYO UNIVERSITY NEWS」の学習支援特集では、図書館ページに電子ブックをメインに掲載しました。法学部図書館NAVIの推薦書では、電子ブックを契約している書籍に閲覧用のリンクを記載しています。また、図書館の閉館やお知らせ放送で「電子ブックは24時間・365日、図書館ホームページ、もしくはOPACから利用できます」といったアナウンスを盛り込む取り組みを始めました。更に、電子ブックのリンクをQRコード化し、テーマごとにポスターを制作し、関係部署にも配付する、そして教員の著書は出来るだけ電子ブックも購入して、教員著作紹介で「全文がWebで読める」ことをアピールしております。
2つ目の目標は、洋書の電子ブックの更なる広報活動の実施です。本学はシュプリンガーネイチャーをはじめとした沢山の電子ブックを契約しています。しかしながら、それらへのナビゲーションが円滑にできているか・・・というと悩みどころです。そこで実は今回のインタビュー依頼を受けて、東洋大学図書館館長である和田昇先生に協力を仰ぎ、本学の洋書の電子ブックタイトルリストを見ていただきました。そうしましたら、古典文学や初学者向けの実用書など、学生向けのタイトルが想像以上に多く含まれていることが判明しました。先ほどの「電子ブックの見える化」と共通しますが、今後はこういった洋書のタイトルを紹介する、特に学生に向けたWebページを作成することはもちろんですが、少しでも手に取りやすく なるようにナビゲーションを実施していきたいと考えています。
話し手 |
* 所属、タイトル、活動内容は、2019年9月時点の情報です