Nature Research Magazineの編集出版担当部長であり、Scientific Americanの編集長を務めるMariette DiChristinaより、グランド・チャレンジプログラムがスタートから18ヵ月間でどれほど成長したのか、また、このプログラムがなぜ当社に重要なのかの見解を得ました。彼女はインタビューで、このプログラムがシュプリンガー・ネイチャー内外の共同行動をどれほど駆り立てているかを語りました。新たな出版戦略から学術、企業、政策のリーダーとの共同イニシアチブに至るまで、このイニシアチブは、主要な社会、環境、経済的課題に取り組む幅広い協調努力の一環なのです。
グランド・チャレンジプログラムを考案するうえで大きな動機となったものとは?
科学、政策、経済の結びつきを強化
Springer Natureは、ミッションを重視する企業であり、発見の進展を促す科学に基づく思考の力を信じています。このプログラムの開発にあたり、応えたいと考えたニーズの1つは、研究者の研究を、それらの知見を実行に移すことのできる政策・経済コミュニティの手に委ねることを手厚く支援することでした。当社のプラットフォームと出版物を通じ、こうしたグループを結びつけることで、政府および企業を支援し、研究を効果的な政策や実務へと変えることで、世界中の都市での生活の改善および都市以外の地域に対して都市の影響を低減するといった、幅広い問題に取り組みます。
こうした複雑な問題に対応するには、政策立案者、専門家、企業家、科学者の間で継続的かつ効果的な協力が必要になります。プログラムを考案するうえで大きな動機となったのは、喫緊の社会問題解決の着実な進展を支援するため、人と分野の双方を結びつけることでした。
世界的な懸念に対する分野横断的なアプローチ
このプログラムの5つの柱を「グランドチャレンジ」として提示した理由の1つは、プログラムに意味のある進展を果たすには、専門家コミュニティに加え、研究分野との間に強力かつ持続的な交流が必要であるためです。こうした課題へのアプローチは、分野横断的でなければならないため、私たちのもう1つの目標は、私たち出版と世界の研究コミュニティ双方において分野の垣根を取り払うことでした。
人類の努力について私たちが知っていることの1つは、協力することで必ずより良い結果が得られるということです。このプログラムを開発する大きな動機となったのは、以下の質問に答えることでした。「人々のため、どうすれば情報をまとめることができるのか?どうすれば人々を結びつけ、距離を縮めることができるのか?最も困難な課題に立ち向かう世界を支援するには、どうすれば利用しやすい方法で情報の共有が可能なのか?」
コミュニティのニーズに応じた出版戦略
近年、コミュニティをさらに支援するため、私たちはジャーナル間の協力を育成することに重点を置いています。また、編集者がさまざまな専門家や広範なコミュニティとより緊密に接触できる方法も熟考しました。そして、この取り組みを次の段階へと進めていくのがグランドチャレンジ・プログラムです。このアプローチにより、縦割り型に分野に特化することなく課題に取り組み、変化を促すことが可能になります。プログラムの目標は、私たちの出版戦略を再検討するのに役立っており、人類の最大の課題に取り組むために研究コミュニティ、企業、および政策ネットワークが必要とするテーマに関するより多くの研究、分析、意見をともに収集します。また、複数の部門にまたがる協力の育成にも役立っています。その結果、気候変動や国際保健といった複雑な課題に対応できる補完的な編集戦略がもたらされました。
このプログラムがもたらすもう1つの良い効果は、私たちの組織全体がプログラムに参加することに対して大きな喜びを見出しているということです。これは使命を重視するという当社の性質、つまり出版によりサービスを提供しているコミュニティに恩恵をもたらしたいという思いを実際に反映したものだと考えています。グランドチャレンジ・イニシアチブを支援するためにはどうすればよいのかを尋ねる方がいらっしゃることを喜ばしく思います。このことも、プログラム立ち上げの際の大きな動機となりました。つまり、このプログラムは、シュプリンガー・ネイチャーにとどまらず世界中の人々を結びつける可能性を秘めているのです。
グランドチャレンジ・プログラムは開始以降、どのような成果を収めていますか?
読者のためコンテンツの関連性を高める
私たちの目標の1つは、あらゆる形式のコンテンツの関連性を高め、世界中の読者にテーマに基づいた一元的な方法で研究を提示することでした。このような理由から、当社はグランドチャレンジ・ポータルを開設しました。これにより、シュプリンガー・ネイチャーのあらゆる出版物の中から新しい重要な資料に焦点を当てることができるようになりました。2017年には、2,800以上のジャーナルと13,000以上の書籍を出版しました。このポータルでは、この膨大な出版物から厳選されたコンテンツセレクションを研究者、専門家、政策立案者および幅広い読者層に役立つよう、単一のプラットフォームで公開しています。
テーマに基づく出版
もう1つの画期的な展開は、グランドチャレンジ・プログラムによって内部変化が触発されたことです。このプログラムは、私たちが出版活動にどのように取り組むかを形作りました。数年前より、グランドチャレンジをテーマにしたジャーナルを開始しました。これにより、学際的な研究を読者に提供し、より幅広い読者層にアピールし、専門家のコミュニティを結びつけることができました。書籍とジャーナルがグランドチャレンジ・ポータルで特集されており、現在「Change the world one article at a time(1本の論文が世界を変える)」というイニシアチブに取り組んでいます。このイニシアチブは、当社の9万あるオープンアクセス論文でない場合、グランドチャレンジに関連するジャーナル論文を一定期間、無償でアクセスできるようにするものです。
ミッションを重視する専門家を結集
2018年7月にシンガポールで開催された、初の重要なグランドチャレンジイベント「科学と持続可能都市(Science and the Sustainable City)」をご紹介します。この会議は「世界都市サミット(World Cities Summit)」の一部であり、都市計画者、科学者、市長、大臣など2万人が集まり、繁栄のため都市をどのように運営するのか議論が行われます。これまでになく多くの人々が都市に移住しており、この問題は今後数年間きわめて重要となります。
都市は国際社会の縮図であり、惑星として私たちが直面している課題の多くを反映しています。都市人口の高齢化に伴い、例えば、人が増え続けるなか、取り組むべき健康問題は多様になっています。同様に、エネルギー需要が飛躍的に高まっています。環境をさらに損うことなく、都市共同体の成長に対応するためには、より持続可能な方法でエネルギー需要を満たす必要があります。比較的小規模でこうした複雑な問題に取り組む、科学、都市、企業コミュニティの努力を支援することで、世界中の現実的な解決策に貢献したいと考えています。
このサミットで、あらゆる分野と職業における著名な専門家たちの貢献を目にすることでしょう。このサミットでは、実際にグランドチャレンジ・プログラムによって私たちが達成しようとしているすべてのことを体現しています。すなわち、政策立案者や専門家とともに科学コミュニティをまとめ、深刻な社会問題への解決策の発見を手助けするということです。Scientific American、Springer、およびNature Researchの各ジャーナル編集者が司会を務めるこのイベントで、持続可能性や都市計画を主導する機関の専門研究者、IBMの最高イノベーション責任者(chief innovation officer)といったビジネスリーダーを結びつけることでしょう。
世界に貢献するための科学支援
当社の第一の使命は、実際にこのプログラムが支援する出版社として、世界の研究コミュニティの学習・協力、そして成果の達成を支援することで発見を進展させることです。究極的には、科学を支援することによって世界に貢献することを目指しています。これまでのプログラムに関する皆さまのご意見や改善点を伺いたいと思っています。1つの惑星として持続可能な暮らしを成功させるためには、すべての英知を結集させる必要があります。
Mariette DiChristinaに関する詳しい情報
Mariette DiChristinaはNature Research Magazinesの編集出版担当部長(Executive Vice President)であり、Natureの雑誌、Nature Researchの「Partnership & Custom Media」、およびScientific American(2009年より編集長を務める)において、受賞歴のある世界的編集チームを監督しています。Marietteは、Folioの2014年のTop Women in Digital Mediaで「Corporate Visionary」を受賞しました。2011年に米国科学振興協会の特別会員に選ばれました。米国のNational Academies of Science, Engineering and Medicineの気候変動コミュニケーション・イニシアチブの委員と、非営利のScience Countsの理事を務めています。米国のNational Association of Science Writersの元会長であり、ニューヨークのScience Writersを務め、ニューヨーク大学のScience, Health and Environmental Reporting Programの非常勤教授および客員研究員を数年にわたり務めていました。講演者や司会を何度も務めており、世界経済フォーラムの年次総会であるダボス会議と「サマー・ダボス」会議ではメディアリーダーとして出席しています。そこで特に新技術の課題と機会を中心に科学技術革新プログラムを支援し、「新興技術トップ10」年次提携一覧を監修しています。ニューヨーク在住。