シュプリンガー・ネイチャーのジャーナルで論文を出版された研究者の皆さんに、研究の背景や投稿ジャーナルの選び方、オープンアクセスに関する考え方等について伺いました。
シュプリンガー・ネイチャーのジャーナルで論文を出版された研究者の皆さんに、研究の背景や投稿ジャーナルの選び方、オープンアクセスに関する考え方等について伺いました。
共著者: Yukari Tanaka, Yasuhiro Kanakogi & Masako Myowa
掲載誌:Humanities and Social Sciences Communications (2021年2月)
※以下、文中では HSS Communications と表記します。
私の研究分野は、発達科学(Developmental Science)です。発達科学とは、発達心理学が発展してできた学問です。発達心理学は、ヒトや動物の心のはたらきが生涯にわたってどのように変化するか、その過程を研究します。発達科学は、医学・神経科学・情報工学などの研究分野にまたがり、ヒトや動物の心のはたらきが、いつからどのような仕組みでおこるのか、その機序の解明を目指しています。私は、大学生時代の塾講師のアルバイト経験から、子どもの性格や能力の多様性に触れ、「より良く育つとはどういうことか」という問いを抱き、発達科学の研究に興味を持つようになりました。「発達」と聞くと、「何歳頃に何ができるようになる」というイメージを持っていましたが、ヒトの心の発達は予想よりもはるかに多様で複雑です。科学的研究を通して、ヒトの心の発達原理について明らかにしていきたいと思っています。
生後半年の乳児とその母親を対象に、母子間遊び中に起こる身体接触が、乳児の物体や他者への行動に与える影響を検討しました。実験では、母子間の遊び場面を観察し、身体接触の生起頻度とそのタイプを分析しました。身体接触を、情愛的接触(e.g. 撫でる、抱く)、刺激的接触(e.g. くすぐり)、道具的接触(e.g. 衣服を直す)の3つに分類しました。母子間遊びの前後に、乳児の、物体探索行動や、見知らぬ他者に対する接近・回避行動を調べました。遊び前後での乳児の行動変化と、身体接触のタイプとの関連を調べました。その結果、情愛的接触の生起頻度が高かった乳児ほど、物体探索が促進され、見知らぬ他者に対する回避行動が抑制されました。情愛的接触は、乳児のぐずりや泣きを鎮める効果があると言われてきましたが、この研究で、乳児の探索行動や他者への行動を調整する機能があることが新たに示されました。
私たちの研究グループは、最初にジャーナルを決めてから研究を始める訳ではなく、自分たちの研究目的に合うジャーナルを探します。研究手法や結果、インパクトやオリジナリティなどを踏まえて、出版するジャーナルを選択します。今回は、共著の先生の一人が、HSS Communicationsで論文を公開された経験があったこと、今回の研究テーマと雑誌の研究関心が一致していたことなどが理由で、HSS Communicationsを選択しました。
私は、妊娠中にこの論文のリバイズを行わなければならず、体調が芳しくない時期もあったため、とても苦労しました。Springer Nature編集部の方は、細かい質問や問い合わせに対しても迅速かつ丁寧に対応くださいました。彼ら・彼女らのサポートのおかげで、無事に論文を完成させることができました。
新型コロナウィルス(covid-19)の感染拡大が懸念される今、国内外の研究者との交流機会はかなり減少しています。オープンアクセス形式で論文を公開することで、自分の専門内外の研究者から、コメントや問い合わせをいただいたり、思わぬところで研究者同士の興味や関心がつながり、学際的研究に発展する、といった機会が増えると思います。また、オープンアクセスにすると、研究者以外の方も論文にアクセスできるようになるので、科学研究が一般に幅広く普及する一助になると思います。
現場で働いている保育関係・教育関係の方や、現在、子育て中の知人らに、興味を寄せていただきました。この研究を通して、親子間の身体接触が子どもの発達にとって具体的にどのような意味があるのかについて、科学的な視点から示すことができたのではないかと思います。
(2021年6月15日更新)
掲載論文:Structure and properties of densified silica glass: characterizing the order within disorder
共著者:Yohei Onodera, Shinji Kohara, Philip S. Salmon, Akihiko Hirata, Norimasa Nishiyama, Suguru Kitani, Anita Zeidler, Motoki Shiga, Atsunobu Masuno, Hiroyuki Inoue, Shuta Tahara, Annalisa Polidori, Henry E. Fischer, Tatsuya Mori, Seiji Kojima, Hitoshi Kawaji, Alexander I. Kolesnikov, Matthew B. Stone, Matthew G. Tucker, Marshall T. McDonnell, Alex C. Hannon, Yasuaki Hiraoka, Ippei Obayashi, Takenobu Nakamura, Jaakko Akola, Yasuhiro Fujii, Koji Ohara, Takashi Taniguchi & Osami Sakata
掲載誌:NPG Asia Materials (2020年12月)
私の研究分野はガラスの構造物性研究です。ガラスは結晶のような構造規則性が欠如していることから、その構造を一意的に決めることができません。したがって構造を通して物性を理解することが極めて困難であります。私は、放射光X線・中性子・電子線といった量子ビーム実験と構造モデリングを専門としております。この分野を選んだきっかけは大学院の博士課程で液体の構造に興味を持ったことに始まります。アメリカの国立研究所で液体の中性子回折を行い、難しいけど面白い研究と感じたことからこの分野を選びました。
この論文では、シリカ(SiO2)ガラスというとてもありふれた、しかしもっとも大事なガラス材料の研究を行いました。ガラスに圧力をかけた状態で温度を上昇させて保持、回収しました。高温・高圧処理をすることによりガラスは永久高密度化し、密度の上昇にともなって屈折率が上がります。X線回折、中性子回折実験から1200℃/7.7GPaという高温・高圧下から回収した高温圧縮ガラスは世界一構造秩序のあるガラスであることが分かりました。また、室温/20GPaから回収した低温圧縮ガラスは1200℃/7.7GPaから回収したガラスと組成、密度は同じですが、時間の経過とともに密度は減少し(永久高密度化しない)、さらに構造・ダイナミクスが異なるという発見をしました。
論文を書くからにはやはり分野外の人も含めて多くの人に読んで頂きたいといつも思っております。そのためにはやはりなるべくインパクトファクターの高い雑誌を選びます。あとは、自分の研究に興味を持って下さるエディターがいらっしゃる雑誌を常に探します。加えて、多くの同じ分野の研究者の方々が読む専門誌にも解説記事を投稿することもあります。結局のところ、論文の引用数が増えれば一番良いと思いますが、私の過去の業績を見てみますと、やはりインパクトファクターの高い雑誌に掲載された論文の引用数が多い傾向にあります。
NPG Asia Materials は私が予想していたよりも幅広い分野を扱って下さり、我々のようなマイナーな分野の論文でも丁寧に査読して下さっていると思います。とくにエディターの方々が非常に丁寧な査読をされているという印象を持っております。また、英語の修正とかも行って下さり、とても丁寧な印象があります。NPGという名前がついているので、やはり雑誌の価値も高いと思い、掲載された時はいつも共著者と喜ばせて頂いております。今後もインパクトのある研究成果が得られた場合は投稿させていただきたいと思います。
論文はやはり多くの人に読んでいただきたいので、最近はどの学会誌に投稿する時もオープンアクセス形式にしております。また、読者として読みたい論文に簡単にアクセスできないと、その場で諦めることもまれにあります。どなたでも無料で論文にアクセスできるということは、学術研究の普及を促進すると思います。また、後々に解説記事を書く時の版権のことを考えると、やはりオープンアクセスは大事だと思います。可能な限り、今後もオープンアクセス形式で論文を公開していきたいと思います。
反響は非常に大きいです。プレスリリースをさせていただきましたが、ガラスの構造を温度と圧力で自在に操れることを示せましたし、世界一構造秩序のあるガラスを合成したことはこの分野に与えたインパクトは大きいと考えております。日本語の解説記事の執筆依頼がすでに来ております。また、ガラスの構造も私がこの分野の研究をはじめた約20年前と比べると今まで分からなかったことが分かるようになってきました。今回は実験、計算等様々な技術を組み合わせた解析を試みましたが、その有用性を示せたとも思っています。
(2021年6月8日更新)
掲載論文: Efficacy of anti-PD-1 antibodies in NSCLC patients with an EGFR mutation and high PD-L1 expression
共著者: Ken Masuda, Hidehito Horinouchi, Midori Tanaka, Ryoko Higashiyama, Yuki Shinno, Jun Sato, Yuji Matsumoto, Yusuke Okuma, Tatsuya Yoshida, Yasushi Goto, Noboru Yamamoto & Yuichiro Ohe
掲載誌:Journal of Cancer Research and Clinical Oncology (2020年7月)
自分の研究分野は、肺癌に対する薬物療法全般です。大学卒業後、元々呼吸器内科として働き、肺癌は勿論のこと、間質性肺炎や肺高血圧症、喘息、COPDの治療に従事していました。その中で肺癌患者さんの治療にあたることが多く、患者さんのためにより良い医療を届けたいということが、肺癌に対する研究を行うきっかけになりました。今では、非小細胞肺癌、小細胞肺癌を中心に研究を進めており、研究成果を患者さんに還元できるように精進しております。
本研究は、EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌を対象とし、PD-L1の発現毎の抗PD-1抗体の効果を後方視的に検証した研究です。一般的にEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌に対する免疫チェックポイント阻害剤の効果は乏しいと言われています。しかし、EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌においても、1次治療であるEGFR-TKI耐性後の2次治療以降で使用する機会があります。その症例の中で一定の効果がある症例があり、PD-L1の発現別で免疫チェックポイント阻害剤の効果の違いはないかという疑問からこの研究を開始しました。当院(国立がん研究センター中央病院)のカルテデータを検証したところ、PD-L1低発現(TPS50%未満)の症例では抗PD-1抗体の奏効率および無増悪生存期間が非常に乏しい結果がでました。一方、PD-L1高発現(TPS50%以上)の症例では、一定の効果を認めました。EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌において、PD-L1低発現例では抗PD-1抗体は治療として使用し難く、高発現例では十分に治療選択肢の一つとして使用できるという結論に至りました。
出版するジャーナルは、呼吸器系もしくは腫瘍系のジャーナルを中心に検討し、上司や同僚の勧めや、査読があるかないか、その雑誌がいつから創刊されているか、などから総合的に選択していきます。Journal of Cancer Research and Clinical Oncology は、1979年創刊の由緒あるジャーナルであり、しっかりとした査読があり、長年に渡り質の高い多数の研究論文を出版しているジャーナルであり、本研究を投稿するにふさわしいジャーナルであると判断しました。同僚も多く投稿されており、投稿論文に対し、十分適切な判断を頂けると考えました。
実際に論文を投稿し、迅速かつ的確なレビューを頂き、非常に嬉しく思いました。レビューから投稿までの時間も多くはかからず、スムーズにPublishまで行え、非常に良い経験をさせて頂きました。自分の研究が Journal of Cancer Research and Clinical Oncology に出版された際に、ホームページでとても美しく掲載され、PDFも見やすく、Journal of Cancer Research and Clinical Oncology で出版して良かったと感じました。また投稿する機会があれば投稿したいと考えています。
オープンアクセス形式で論文を公開することで、幅広い研究者に自分の研究が伝わりやすく研究者たちがそれぞれの分野で後れを取ることなく各自の研究を発展させていけると思っています。インターネット上で、科学論文への迅速かつ無制限のアクセスが可能となることは、科学の飛躍的な進歩を後押しするのではないかと考えます。ただし、論文の質を担保するためには査読が必須であり、Journal of Cancer Research and Clinical Oncology のように、しっかりとした査読者が居てこそ成り立つ制度であるともと考えています。
出版後に本研究論文を読んでくれた同僚や後輩から祝福の連絡を受けました。まだまだ他の論文に引用されている件数は少ないですが、EGFR陽性肺癌に関する重要な知見だと考えていますので、読んでくれる研究者が増えてくれることを祈っています。Journal of Cancer Research and Clinical Oncology のような由緒ある雑誌で論文を投稿し、幅広い研究者に役立つ知見を公表していけるように努力していきたいと思います。
(2021年6月1日更新)
Image credit: Andriy Onufriyenko/ Moment/Getty