Bookmetrix: 学術研究における書籍のインパクトを明らかに

マルティン・ルランセへのインタビュー

© Springer最近まで研究成果と影響度の評価は主にジャーナル論文によって行われており、2015年にBookmetrixが発表されるまで、書籍で発表された研究の相対的な影響度にはあまり注意が払われていませんでした。Bookmetrixは指標プロバイダであるAltmetricと共同で開発したプラットフォームで、260,000冊以上の書籍、450万以上の章のデータを収録しており、無料で利用することができます。

Bookmetrixは、シュプリンガー・ネイチャーのPublishing Innovation の長にして元神経科学者のMartijn Roelandse(マルテイン・ルランセ)のビジョンにより開発されました。
彼がシュプリンガー の神経科学出版プログラムの編集者であったときに、書籍で発表された研究の影響度を明らかにする指標とテクノロジーの両方を生み出すというアイデアを思い付きました。マルテインはBookmetrixの開発理由について以下のように語っています。

現在、研究の普及において、書籍はどれくらい重要な役割を果たしているのでしょうか?

現在、書籍はジャーナル論文同様、学術研究で広く使用されています。他の研究で引用され、さらにツイッターで議論され、ニュースウェブサイトやブログでも取り上げられています。
中でも重要なのは頻繁にダウンロードされているという事実です。2016年に出版されたタイトルの場合、1書籍当たり平均で5,000回以上ダウンロードされています。この事実を踏まえると、書籍が学術界では非常に有用であり、有効活用されていることがわかります。
書籍出版界は印刷からオンラインへという流れにより、この10年間で読者が増加し、影響度の測定も容易になりました。Bookmetrixは書籍における研究の影響度への透明性の向上を目指しています。

研究評価は、引用数指標以外にもどのくらい拡大しているのでしょうか?

ブログ、ソーシャルメディア、ニュース、政策ウェブサイトなどは、研究資料としてますます突出し、評価方法が拡大しています。欧州連合は、他の資金提供者および研究組織とともに、学術の中心を研究成果の速やかな出版から、可能な限り多くのデータ共有へとシフトしています。これまで、このような新しいチャネルに対する標準やベンチマークについての国際的なコンセンサスはありませんでした。しかしながら、多くの資金提供者や政府が、情報へのアクセス、測定、評価のための最善の方法について積極的に考えるようになっています。

書籍の影響度を測定する指標を開発する際、主なモチベーションになったものは?

編集者時代、研究者が「本を出版したところで自分の研究の評価や大学での評価に影響するわけではない」と言っていたり、多くの著者が不満げに「自分の本がどのような影響を与えたか、機関や資金提供者に望み通りに評価されたかがわからない」と言っているのを耳にしました。こうした事実は著者だけでなく我々出版者にとっても残念な事態であり、Bookmetrixを開発する上での一番のモチベーションになりました。
著者の皆さんに、その研究の真の到達度と影響度への評価を可能にする指標を数多く提供したかったのです。書籍の引用数指標の作成は目標への第一歩に過ぎません。さらに、ダウンロードされたデータ、オンラインでの言及数、レビュー、その他のオルトメトリクス指標についてもより詳細に提示できるようにしたいと考えました。

影響度の指標がないため、多くの研究者が書籍での出版を見送ってきたのを目にされていますが、このような状況は近いうちに変わると考えていますか?

興味深いのは、Bookmetrixにより、出版社をシュプリンガー・ネイチャーに移行している著者が多いという事実です。これは特にドイツで顕著です。パルグレイブとシュプリンガーの統合以降、社会科学の書籍にも指標を提供できるようになりました。その意義は非常に大きなものです。書籍は人文科学や社会科学の領域では理想的な形態であり、こうした分野の著者が、自身のタイトルがどの程度利用され、議論され、レビューされ、引用されているか明らかにできることはきわめて重要です。
指標は、書籍が学術研究において必要不可欠な役割を果たしていることを示しており、より多くの著者に書籍での出版を考えるきっかけになっています。2016年、書籍全体の25%以上が1年以内に1回以上引用されており、そして平均で1タイトル当たり0.91回引用されています。オルトメトリクス指標ではさらに良いスコアが出ています。

どれくらい引用されたか、あるいはどれくらいの期間影響が保たれるのかという見地から、書籍とジャーナル論文の相対的なパフォーマンスについてどのようなことがわかりますか?

大抵皆さん驚かれますが、書籍の平均引用数はジャーナル論文の引用数を大きく上回っています。1冊の書籍はその寿命において平均して20回引用されるのに対し、ジャーナル論文は平均10.8回*の引用に過ぎません。またある書籍の被引用半減期は20~30年程で、これはジャーナル論文よりもはるかに長くなっています。書籍は、アーカイブコンテンツ**においても、オンラインでの言及が増えています。

*出典: Thomson Reuters Essential Science Indicators Database, 2000-2010

**:シュプリンガー・ネイチャーでは、2004年以前に発行された書籍を「シュプリンガー・ネイチャー・ブック・アーカイブ」として電子化して提供している。

Bookmetrixには他にどのような指標がありますか? また、それらは広範な学術界でどのように認識されていますか?

ダウンロードやオンラインでの言及などのオルトメトリクス指標が研究コミュニティで勢いと信頼性を増しています。現在、一部の研究に対するツイート数も、多くの人々にとって研究の重要性を示す指標と考えられています。Bookmetrixは、書籍と章の引用数、オンラインでの言及数、読者数、本のレビュー、章のダウンロード数といったデータタイプを含んでいます。

2017年のバージョン2.0でリリースした新機能について教えてください。またリリースした理由は?

バージョン2.0では、Bookmetrixの著者向けの機能の拡充だけでなく、図書館員や研究者にも役立つようなプラットフォームにしたいと考えました。そこで、読者が新たな書籍を容易に見つけられる機能のほか、機関が購読中のイーブック・コレクション(電子書籍パッケージ)の影響度について評価できる機能も搭載しました。また、Book Discovery Pageにベンチマークも表示し、その分野の平均的なパフォーマンスと当該タイトルとを比較できるようにしました。


さらにCollection Discovery Pageも開始しました。図書館は、Collection Citation Performance(CCP)によってイーブック・コレクションの一年間ごとのパフォーマンスを見ることができ、それは全てのイーブック・コレクションについて参照が可能です。CCP指標は、ジャーナル論文のインパクトファクターに相当し、これにより図書館は初めてジャーナルとイーブック・コレクションの影響度を実際に比較できるようになりました。これは非常に強力な機能といえます。

Bookmetrixプラットフォームの今後の開発計画について教えてください。

図書館に対し、機関における研究の影響度を正確に測定できるようなより多くの指標や、購入決定のための十分な情報の提供に加え、費用対効果をもっと正しく評価できるようにしたいと考えています。図書館コミュニティからのフィードバックや要望に基づきプラットフォームに新たな指標を追加していく予定です。また、個々の機関の今までの出版実績がわかる詳しい機関データも追加していく予定です。

For more information, visit: www.bookmetrix.com or click on the metrics links for any individual eBook title on www.springerlink.com.

マルテイン・ルランセ: Head of Publishing Innovation at Springer Nature.