シェイクスピアからトランプまで:Palgrave Macmillanはいかにして150年を超える学術出版の伝統を発展させ、21世紀の研究者に刺激を与えているのか
数々のノーベル賞受賞者を著者に抱えるPalgrave Macmillanは、150年に及ぶ学術出版の伝統を背景に、変化し続ける研究環境や社会文化的環境をしっかりと見据えながら、世界中の読者に影響を与えています。
Palgraveの150周年を機に、Palgrave の人文学を担当するダイレクターであり、Literature, Cultural and Media Studiesコレクションのコミッショニング・エディター でもあるFelicity Plesterへインタビューを実施しました。変化する研究活動を支えるために出版のフォーマットをどう適応させているか、一定の評価を得てきた従来の出版のあり方と革新的研究や画期的コンテンツとのバランス、さらには、数年後のポートフォリオなど、将来の展望を探っていきます。
Palgrave Macmillanのイーブックは2016年からシュプリンガーネイチャーのイーブック・コレクションに加わり、Humanities and Social Sciences(以下HSS)分野で全10種類のコレクションを展開しています。Literature, Cultural and Media Studies のイーブック・コレクションはその一つです。
Literature, Cultural and Media Studiesコレクションで最も多い書籍のタイプは何ですか。また、新しいタイプは登場していますか。
Literature, Cultural and Media Studiesコレクションの約85%がモノグラフと編書です。これは、従来の読者のニーズや習慣の変化に対応するだけでなく、新しい読者層に訴求するためでもあります。
同コレクションにはPalgrave Pivots*も数多く含まれています。Palgrave Pivotsはここ数年、著者にも読者にも人気が高まっています。ハンドブックも多数の読者を獲得しており、この形態で出版するタイトルの拡大を計画しています。新しい研究を刺激するだけではなく、読者にとって最も使いやすく魅力のある形態で出版することが私たちの目標です。
*Palgrave Pivotsとは2万5000から5万語くらいまでの長さで、ページ数がジャーナル論文より多く、モノグラフより少ない書籍です。書籍の特長を生かしつつ、より短い制作期間で出版できる利点があります。
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Literature, Cultural and Media Studiesコレクションのコア読者層を教えてください。
Literature, Cultural and Media Studiesコレクションは、研究者や大学院生を対象としています。また、ブックシリーズPalgrave Close Readings in Film and Televisionのタイトルの一部は、実践を重視する学生や研究者からの利用も増え始めています。
3つのコレクションのそれぞれについて、近ごろ特に大きな注目を集めている著者とタイトルを教えてください。
最近賞を受賞したタイトルと著者の一例を次に挙げます。
- Performing Korea – Patrice Pavis
- Shaw’s Ibsen – Joan Templeton
- Jerome Bel – Gerald Siegmund
- The Palgrave Handbook of Musical Theatre Producers – Laura MacDonald and William Everett
- Handbook of Literature and the City – Jeremy Tambling
- Handbook of Early Modern Literature and Science – Marchitello and Tribble
- John Steinbeck: A Literary Life – Linda Wagner Martin
- Oscar Wilde and the Cultures of Childhood – Joseph Bristow
- Talking Bodies – Essay by Naomi Wolf
- Lasting Screen Stars – Lucy Bolton, Julie Lobalzo Wright
- Toxic Geek Masculinity – Anastasia Salter, Bridget Blodgett (2018)
- Black Masculinity and the Cinema of Policing – Jared Sexton
HSSのコレクションや分野について、近年その利用や引用に何らかの顕著な傾向が見られますか。また、その理由は何だと思いますか。
Literature, Cultural and Media Studiesコレクションのタイトルの中で最も人気を集めているのは、たいてい学際的な内容です。Palgraveは以前から「中間的な」領域に強く、利用傾向にもそれが表れています。人文科学研究の中で最も興味深く刺激的な研究成果の多くがこうした学際領域で誕生しており、このような研究をできる限り支援したいと考えています。
ハンドブックは特定分野の有益な概要を提供するため、引用数が概ね高くなっています。研究者にとってあるテーマについて知るきっかけとなる役割を果たすだけでなく、各分野の独創的な最先端の研究成果も網羅しているため、ハンドブックは幅広い読者に訴求し、大きな影響力があります。
大衆文化と結びついたタイトルもよく利用されています。例として、Ru Paul’s Drag Race and the Shifting Visibility of Drag Culture、Reading Lena Dunham’s Girls、Return to Twin Peaksなどが挙げられます。
読者はHSSコレクションのタイトルを通常どのように利用していますか。その傾向に変化は見られますか。
モノグラフは全編を通して読まれる傾向にありますが、SpringerLinkのすべてのブックタイプで、章単位のダウンロード数が大幅に伸びています。章単位のダウンロードという形で研究者や学生にへよりきめ細かなアクセスを提供することは、各読者のニーズにコンテンツを合わせる積極的な取り組みであり、章単位の発見可能性を高めるためにサーチエンジンの最適化をさらに進めています。
Literature, Cultural and Media Studiesコレクションではイーブックの需要が冊子体を上回っていますか。
HSSの全10コレクションに占める冊子体とイーブックの割合は相変わらず半々くらいであり、冊子体が当初の予想よりも長く主流であり続けています。人文科学系の研究者や学生が比較的古風であり、紙の書籍を好む傾向が根強いことがわかります。
近年ではオンデマンド印刷技術の向上が目覚ましく、少ない部数でも迅速かつ極めて高水準な印刷対応が可能となっています。つまるところ、冊子体とイーブックとのバランスをとるにあたっては、読者が多くの場合、その両方を必要とし、どちらにも極めて高い水準を求めていることに留意しなければなりません。
Literature, Cultural and Media Studiesコレクションのそれぞれについて、今後予想される注目のテーマや新たな研究トレンドを教えてください。
コミッショニング・エディターは、今後重要になる可能性を秘めたニッチな学際的研究テーマを把握するために、従来の学術分野の周辺領域に絶えず目を配っています。例えばLiterature and Medicine(文学と医学)、Digital Humanities(デジタル人文科学)、Disability Studies(障害学)、Theatre and Science(演劇と科学)とTheatre and Ecology(演劇と生態学)、Game Studies(ゲーム学)、Comic Studies(コミック学)などが挙げられます。世界中の著者が執筆し、私たちが出版する書籍や章が次々と増えていくのは、国際的な出版社である当社としては非常にうれしいことでもあり、こうした動きは、研究分野の分散化や従来のアングロサクソン中心の学術界からの脱皮といったトレンドを反映しています。
近年の人気の高まりに驚かされた分野やタイトルはありますか。
2017年はコレクションの3つの分野すべてにおいて、大ヒット書籍がいくつか生まれました。中でも注目すべきは、 Selfie Citizenship、Embodied Philosophy in Dance と Memory in the Twenty-First Centuryです。舞踊学や、英国のテレビコメディを含むテレビ学の人気の高まりには驚かされました。
コミッショニングのプロセスがどう進められるのか教えてください。今後のコレクションはどのように設計・形成されますか。
コミッショニング作業の多くは国際的な学術会議の場で行われますが、この方法はコレクションを話題のテーマに沿った、ダイナミックで先進的なものにするのに役立っています。2018年のプログラムは、複数の新シリーズの第1巻を刊行したことが特徴であり、従来からの揺るぎない強みに加えて、学際的な新領域で挑んだ最先端の取り組みを生かした内容となっています。幅広さ、多様性、独創性を意識してまとめられ、世界中の新進の研究者と定評のある著者が執筆陣に加わっています。
コレクションが今後数年でどのように発展・拡大し、HSS研究の領域を押し広げていくと考えていますか。
デジタルフォーマット(論文や章単位)の多様化と、動画や音声、さらにはブログまで組み込んだインタラクティブなタイトルの増加といった大きな動きがあると予想しています。Palgraveの理念は探求と革新であり、先駆的な著者と手を携え、学際的研究の新領域に注目し、トランプや英国のEU離脱、ジェンダー・ポリティクス、AIの文化的影響など、より大きな文化的・政治的テーマを分析することによって、引き続きその理念を実践していきます。
人文科学研究の領域を押し広げる使命を果たすと同時に、従来の人文科学分野で長年築き上げた信頼できる出版社としての評判を維持することにも力を尽くします。分野や読者層、出版形態を問わず、私たちのすべての取り組みの中心には、厳格なピアレビューと出版に対する真摯な姿勢があります。
Felicity PlesterはPalgraveの人文学分野のダイレクターとしてFilm, Culture and Media Studiesの出版プログラムを担当し、質の高い最先端の研究成果をモノグラフ、編書、ハンドブック、短文式の新しいモノグラフであるPalgrave Pivotなどの多様な形態で出版しています。
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