[プレスリリース] 新たな調査により、研究者が選好する論文のバージョンに関する知見を得る
シュプリンガー・ネイチャーによるデータから、研究者の大多数が「信頼性の高い」最終公開バージョンの論文へのアクセスを希望しており、即時ゴールドOAに対する支持が高まっていることが判明
ロンドン 2021年2月18日
研究論文には、プレプリントと受理原稿、最終的に公開された正式版(VOR;Version of Record)が存在しています。このことは、現在の研究者が複数のバージョンの研究論文にアクセスすることが可能であり、その数が増え続けていることを意味しています。シュプリンガー・ネイチャーでは、本日発表された最新の白書「Exploring researcher preference for the Version of Record」(ResearchGateによるデータと共同で作成)を通じ、上記の各種バージョンに対する研究者の見方、ならびに研究者が選好するバージョンとその理由に対する理解を深めたいと考えています。
ResearchGateのプラットフォームに同時掲載したシュプリンガー・ネイチャーのコンテンツの使用法について評価し、1,400人近くのResearchGate利用者に対する調査を実施したところ、圧倒的な割合の研究者(83%)が通読全般と自身の研究への引用の双方に関して、受理原稿(AM; Accepted Manuscript)やプレプリントよりもVOR論文を選好していることが明らかになりました。研究者は、VORの方がピアレビュー(査読)と掲載の証明による保証があることから、読みやすく、信頼性が高く、権威と信用性に優れていると考えています。特に定評のあるジャーナルへの掲載は、初期バージョンでは得られない「信用の印(stamp of credibility)」を与えるものとなります。
VOR論文にアクセスできない場合、大多数(9割近く)の研究者がVORにアクセスするために直接的な行動を取るとしています。さらに、研究論文の著者としての立場から、他者に利用してもらいたい自身の論文のバージョンとしてVORをあげています。
ゴールドOAでは、権威あるVORに即時かつ無制限にアクセスすることが可能です。したがって、以上の結果は、ゴールドOAルートを通じてVOR論文の入手可能性を拡大する必要性、ならびに将来的な完全オープンリサーチにいたる重要なステップであるゴールドOAに対して、継続的かつ持続的に出資する必要性を裏付けるものとなります。
シュプリンガー・ネイチャーのChief Publishing and Solutions OfficerであるSteven Inchcoombe(スティーブン・インチコーム)は、次のようにコメントしています。
「圧倒的多数の研究者が、読者としても著者としても最も好ましい論文のバージョンとしてVOR論文をあげていることが明らかになりました。このことは、私たち全員があらゆる努力を結集し、ゴールドOAを通じてVOR論文をただちに入手できるようにするべく、取り組む必要があることを示しています。グリーンOAをさらに強化し、AMの入手可能性をさらに拡大する取り組みでは、科学的記録に関する混乱をさらに増幅するだけに終わる可能性があり、研究者の選好も反映されません。だからこそ、私たちは掲載する一次研究を全てゴールドOAに移行し、この権威あるバージョンを全ての人がただちに入手できるようにすることを公約しているのです」
「グリーン」OAを通じ、未完成の受理原稿への即時アクセスのみを提供しても、受理後の論文の改善によるメリットは得られず、データやコードとも連携されず、論文の修正や撤回は示されず、結局は、図書館での継続的な購読に頼ることになります。そのため、研究事業全体の未来にとって極めて重要なオープンサイエンスを将来的に実現するという約束を果たすことができないリスクが生じてしまうのです」
主な結果の概要:
- 研究者は、VOR論文を通読・引用したいと考えています。回答者の83%が自身の研究への論文内容の引用にVORを利用したいと回答しました。ちなみにAMを利用したいと回答したのは9%、プレプリントを利用したいと回答したのは2%でした。
- 研究者は、VOR論文は読みやすく、信頼性が高いと考えています。自由回答において、回答者はピアレビューと掲載の証明がVORに保証を与えているとコメントするとともに、研究者には大量のコンテンツを通読するだけの時間が不足しており、論文にすばやくアクセスし、引用したいと考えていると指摘しました。
- 研究者にはAMやプレプリントよりも、VOR論文を検索する方法を探す傾向が見られます。論文著者がVORへのアクセスを提供していない場合(購読やOA出版によるアクセスを提供しなかった場合)、大多数(9割近く)の研究者がVORにアクセスするために直接的な行動を取るとしています(論文著者へのお問い合わせなど)。
- その他の論文バージョンにも価値はあるが、使用には注意が必要です。多くの研究者はVORを選好しているものの、プレプリントやAMも通読するうえで(場合によっては引用するうえでも)不安はないと考えています。特にプレプリントから得られるメリットとして、入手までのスピードの速さが指摘されています。
- 大多数の研究者は、VOR論文は最も権威があり、信頼性が高い情報源であると考えています。研究者がVORを選好しているという事実は、特に定評のあるジャーナルへの掲載が与える「信用の印」に関して、出版社がもたらす価値を浮き彫りにするものです。
白書へのリンク:Exploring researcher preference for the version of record
調査データへのリンク:Exploring researcher preference for the version of record - anonymised data
用語解説
- プレプリント:ジャーナルで正式な査読を行う前の著者の研究論文の原稿であり、主に公開サーバーに投稿される。
- 受理原稿(AM;Accepted Manuscript):ジャーナルで正式な査読が行われた後に受理された原稿。受理後に行われる原稿編集(コピーエディティング)や組版などがされていないバージョン。通常、受理原稿は、リポジトリーや著者のウェブサイトに掲載され、ジャーナルのウェブサイトには掲載されない。
- 最終公開版(VOR;Version of Record):紙媒体および、またはオンラインでジャーナルに掲載されるバージョン。原稿編集(コピーエディティング)や組版など、査読が完了した受理原稿をできるだけ明快で理解しやすくするために編集が行われる原稿。通常、出版社のウェブサイトでPDFおよび、またはHTML形式で掲載される。
- グリーンOA:グリーンOAで出版された原稿は、主にリポジトリーなどに公開される査読後の著者の受理原稿のことを指す。
- ゴールドOA:出版社のプラットフォームにおいて、オープンアクセスで出版するルートで、出版にはAPCが発生する。ゴールドOAで出版された論文は、掲載後直ちにオープンアクセスとなり、プラットフォーム上にて無料で閲覧可能となる。
[プレスリリース] シュプリンガー・ネイチャーとResearchGate、長期的なコンテンツ共有に関する提携を前進させる
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宮﨑 亜矢子
シュプリンガー・ネイチャー
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※ 本プレスリリースの原本(一部を除いて)は英語であり、日本語は参考翻訳です。