[Springboard] CEOからのメッセージ:2022年にオープンサイエンスを推進するために必要なものとは?
昨年の今頃、私は、オープンアクセスおよびオープンサイエンスを推進しようとするシュプリンガー・ネイチャーの抱負について述べました。パンデミックが初期であった当時でさえ、ウイルスおよび将来の治療薬に関する研究の加速に「オープン」であることが果たす重要な役割は明らかでした。その翌年には、現在のウイルスや後に続く可能性のあるウイルスを調査、監視し、理解を深めるためだけでなく、目の前にあるそのほかの大きな社会的課題への解決策を探ろうとする際に、どれほどオープンサイエンスの方法と原則を取り入れることが今後重要であるかが明らかになりました。
2022年1月18日
Research Publishing
著者:Frank Vrancken Peeters(フランク・ブランケン・ピーターズ)、Chief Executive Officer(最高経営責任者)
すべての研究成果を利用できるようにすることによって、より迅速的かつ効果的な研究システムが実現し、ワクチンや世界的課題に対する解決策などの恩恵を全世界にもたらします。プレプリントおよび最終公開版(VOR:Version of Record)がオープンであるように、研究およびその成果を実証するデータ、コード、プロトコル、方法もオープンであるべきです。当社は昨年、100万件の論文をOA(Open Access;オープンアクセス)で出版するという節目に到達しました。これを達成した初めての出版社であること、さらに、2024年までにOAを50%にする公約をしたことを大変誇りに思っています。しかし、当社の取り組みは、ここで終わりません。
この取り組みによって、とても大きな価値がもたらされるため、より早く実現する必要があります。
2022年においては、オープンサイエンスの採用を加速させるために出版界ができる4つの簡単なこと、つまり「4つのP」があると考えています。
- オープンサイエンスへの移行を推進するためにシュプリンガー・ネイチャーの出版(publishing)能力を最大限に活用する
- オープンサイエンスおよび透明性を促進する方針(policies)を策定、実行する
- 著者にとってオープンサイエンスの方法を実施することが可能な限り容易になるよう、適切なプロセスおよび製品(products)を構築する
- 主要な関心領域に関する業界全体の解決策を推進するために、研究コミュニティーにおいて他者と協力関係(partnerships)を築く
これは何を意味するでしょうか?例えば、シュプリンガー・ネイチャーでは、国連の持続可能な開発目標(SDGs;Sustainable Development Goals)を目的としたSDG出版(publishing)プログラムを創設し、2015年に国連の目標が開始されて以降、390,000件にのぼるSDG 関連の研究論文および著書を出版するとともに、国連の目標のそれぞれに専用の17のコンテンツハブを作成しました。著者に対しては、自らの研究をプレプリントとして掲載することを奨励し、再現性のチェックリストを記入するよう求める(新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のように急速に展開する危機に対応するために必須)など、オープンサイエンスおよび透明性を促進する方針(policies)を採用しました。また、著者が当社の出版物全体にわたりOA 出版できるようプロセス(processes)を構築しており、発見に一層役立つよう新たなOAによる学際的なジャーナルも立ち上げています。さらに、UN Sustainable Development Solutions Networkやオランダの大学協会(VSNU;Vereniging van Universiteiten)などとの協力関係(partnerships)を築いており、これらの機関およびDigital Scienceと協力し、SDGs関連研究に関するオープンサイエンスのインパクトを立証しました。
これら4つのPを展開することにより、すべての人がオープンサイエンスへの移行を加速させる際に、研究者、図書館員、政府を支援するための適切な枠組みを構築していると考えています。
しかし、これがすべてではありません。この使命を果たすためには、多様性(diversity)、公正性(equity)、包括性(inclusion)が極めて重要です。したがって、「オープン」は、研究へのアクセスに関することだけに留まらない必要があります。シュプリンガー・ネイチャーの社内のみならず、より広範な研究界でDEI(Diversity, Equity and Inclusion)を擁護する理由はそこにあります。私たちは、経営陣の代表に関する目標を設定し、明確な目標をもった事業横断的なワーキンググループおよび従業員ネットワークを立ち上げ、私たちがより注力しなければならない分野の特定に役立てました。包括的な科学はよりよい科学であるため、その実現に向けて取り組みます。
シュプリンガー・ネイチャーは、常に新しいことに情熱を注いできました。それは、人間の存在および私たちを取り巻く世界を解明する新たな発見であり、すべての分野にわたってそれらの研究成果を明らかにする新たな取り組み方です。オープンサイエンスは、この基盤となります。2022年においては、気候変動などの世界的課題に取り組むために必要な考え方を支援するべく、OA移行への注力、オープンサイエンスの採用に必要なツールおよびサービスの構築、当社の学際的な強みの有効利用を継続します。関係するコミュニティーと協力すること、それがすべての人のために私たちがオープンサイエンスを実現する方法です。
フランク・ブランケン・ピーターズ、最高経営責任者(CEO)
2017年にシュプリンガー・ネイチャーのチーフ・コマーシャル・オフィサー(CCO)として着任後、2019年9月より最高経営責任者(CEO)に就任。メディアおよび出版業界において25年以上の経験を持ち、BtoBとBtoCの両方においてさまざまな戦略・デリバリービジネス機能を率いる役職を経験。これまで、Wolters Kluwerで西ヨーロッパの法務・法規制のリージョナルマネージングディレクター、Infinitas Learningでは最高執行責任者、Elsevier Scienceでは、政府およびアカデミック市場のマネージング・ディレクター(MD)、ScienceDirectのMDおよび、グローバルセールスのMDといった上級職を務め、大規模かつ複雑な国際ビジネスの構築と成長に貢献してきた。オランダのエラスムス・ロッテルダム大学で経営学修士号を取得。
用語解説
- オープンサイエンス:オープンサイエンスとは、研究サイクル全体にオープンネスの原則を拡大し、可能な限り早い段階で共同研究を促進し、共有することです。これは、科学と研究のあり方を体系的に変えるだけでなく、より発見しやすく、使いやすく、効果的な研究システムをサポートし、知識の発見を発展させます。オープンサイエンスの中に、オープンアクセスとオープンリサーチを含みます。
- オープンアクセスとオープンリサーチ:オープンアクセス(OA)とは、ジャーナル論文や書籍などの研究成果をオンラインで即時に無料で利用できるようにし、デジタル環境でフルに利用する権利も提供します。OAコンテンツはすべての人に公開され、アクセス料は無料です。
オープンリサーチは発表論文の垣根を超え、データからコード、さらにはオープン査読にいたる研究成果すべてを対象とします。
すべての研究成果を可能な限りオープンなものとしてアクセスできるようにすることにより、研究のインパクトを高めるとともに、世界で最も重要な課題の一部の解決に役立てることができます。 - プレプリント:ジャーナルで正式な査読を行う前の著者の研究論文の原稿であり、主に公開サーバーに投稿されます。
- 最終公開版(VOR;Version of Record):紙媒体および、またはオンラインでジャーナルに掲載されるバージョン。原稿編集(コピーエディティング)や組版など、査読が完了した受理原稿をできるだけ明快で理解しやすくするために編集が行われる原稿。通常、出版社のウェブサイトでPDFおよび、またはHTML形式で掲載されます。
オープンリサーチに関する基礎や用語解説は、「オープンリサーチとは?基本コンセプトと取り組み」をご覧ください。
Springboard blog(シュプリングボード・ブログ)は、オープンリサーチを推進するため、シュプリンガー・ネイチャーおよびそのパートナーからの最新の見解、コメント、ディスカッションを紹介するプラットフォームです。詳細は、Springboard blogのウェブサイトをご覧ください。
シュプリンガー・ネイチャーは、175年以上にわたり、研究コミュニティー全体へ最良のサービスを提供することによって発見の進展に貢献してきました。研究者が新しいアイデアを公開することを支援するとともに、出版するすべての研究が重要で着実であり、客観的な精査にも耐え、関心をもつすべての読者にもっとも良いフォーマットで届き、発見、アクセス、使用、再利用、および共有されるようにします。私たちは、テクノロジーやデータの革新を通じて図書館員や研究機関をサポートし、学会に出版を支援するための優良なサービスを提供します。
学術出版社として、シュプリンガー・ネイチャーは、シュプリンガー(Springer)、ネイチャー・ポートフォリオ(Nature Portfolio)、BMC、パルグレイブ・マクミラン(Palgrave Macmillan)、サイエンティフィック・アメリカン(Scientific American)などの信頼されたブランドを有しています。詳しい情報は、springernature.com をご覧いただき、@SpringerNature のフォローをお願いいたします。
宮﨑 亜矢子
シュプリンガー・ネイチャー
コーポレート・アフェアーズ
Tel: +81 (0)3 4533 8204
E-mail: ayako.miyazaki@springernature.com
本ブログの原本(一部を除いて)は英語であり、日本語は参考翻訳です。
英語:What’s needed to drive open science in 2022?