【お知らせ】 Peer Review Week 2023開催 – Springboardブログ「研究出版社が査読者のプレッシャーを将来的に軽減するための3つの挑戦」を公開
Peer Review Week(ピアレビュー・ウィーク)とは、科学の質の維持にピアレビュー(査読)が果たしている重要な役割をたたえるために発足されたグローバルなイベントです。
2023年9月28日
2015年に始まったPeer Review Week (PRW)は、毎年9月に開催されています。2023年のピアレビュー・ウィークは、9月25日~29日です。このイベントでは、個人、機関、組織が一堂に会し、「どのようなかたちにおいても、優れた査読は学術コミュニケーションにとって不可欠である」という中核的なメッセージを共有しています。
2023年のピアレビュー・ウィークのテーマは、「Peer Review and The Future of Publishing(学術出版におけるピアレビュー(査読)は今後どうなるのか?)」です。本テーマにおいて、変化する出版事情と、学術コミュニケーションの形成における査読の重要な役割に焦点を当てます。
本テーマに関連して、2つのBMC Series blogが公開されました:
- Peer review week 2023: AI, peer-review, and the future of scientific publishing
- Peer Review Week 2023: Early career researchers share their views on the future of peer review
シュプリンガーネイチャーの査読に関する参考リンク:
- 査読に関するリソース:Peer Reviewers - Resources for peer reviewers
- 査読に関する調査結果:Reviewer Satisfaction - Survey feedback on the peer review process at Springer Nature、
- 著者向けの査読に関するチュートリアル:
- 査読における多様性・公正性・包括性:Addressing diversity & inclusion in peer reviewer and editorial board recruitment(2022年9月15日)
- ジャーナルへの投稿と査読プロセスに、早期共有と透明性の高い査読を統合したプレプリント共有サービス:In Review - Journal-integrated preprint sharing from Springer Nature and Research Square、In Review FAQ(よくある質問)
- 研究者(著者・編集者・査読者)向けの論文処理プラットフォーム、SNAPP (Springer Nature Author Processing Platform):Snapp - Springer Nature's next-generation peer review system, Peer reviewing on Snapp
2023年は、Nature が投稿されるすべての論文に査読を義務づけることを決定してから50周年に当たります。
ネイチャーポートフォリオの査読に関する参考リンク:
- Nature のRegistered Reports(査読付き事前登録研究論文):Nature welcomes Registered Reports(2023年2月22日)、NatureはRegistered Reportsを歓迎します
- Nature Communications における査読(transparent peer reviewとreviewer reports):Nature Communications, Peer Review and Research Integrity(2022年9月19日)
- Nature における査読(transparent peer reivewとanonymous referee reports):Nature is trialling transparent peer review — the early results are encouraging(2022年3月1日)
- 投稿時のデータ共有: A FAIR share、Figshare Integration Guidance for Authors
そのほか、査読の仕組みや方法に関する概要については、「[お知らせ] Peer Review Week 2021開催」のページをご覧ください。
査読に関連する最近の記事:
- Nature Career Feature: Stop the peer-review treadmill. I want to get off(2023年2月13日)
- Nature Career Feature: Fed up and burnt out: ‘quiet quitting’ hits academia(2023年3月3日)
- Nature World View: To fix peer review, break it into stages(2022年11月22日)
シュプリンガーネイチャーでは、ピアレビュー・ウィークを機に次のSpringboardブログを公開いたしました。
【Springboardブログ】研究出版社が査読者のプレッシャーを将来的に軽減するための3つの挑戦
Research Publishing
著者:Chris Graf(クリス・グラフ)、 Research Integrity Director(研究公正ディレクター)
今年のピアレビュー・ウィークでは、「学術出版における査読は今後どうなるのか?」という質問をテーマとして取り上げています。ハイパーコンペティション(超競争)が生じ、研究成果を容赦なく追求することを特徴とする現在の研究環境では、論文著者と査読者に対し、独特のプレッシャーが生じています。この問題の解決に向けた要素としては、出版社がテクノロジーと人材を正しく融合させることを可能にする方法があげられると考えられます。シュプリンガーネイチャーでは、多くの研究出版社と同じく、研究者を出版業務の中心に据え、研究システムの信頼性と価値を高めることが、当社の事業を構成する不可欠な要素であると考えています。その例として、研究者のために当社が実施しているあらゆる取り組みの合理化を進めることにより、研究者が直面しているプレッシャーを多少なりとも軽減するべく最善を尽くすことがあげられます。そのため、シュプリンガーネイチャーでは、研究者による査読付論文の出版をサポートし、可能な限り迅速に公開するとともに、最も効果的な方法を用いて論文を周知させるシステムに資金を投じています。
研究文化に関する議論では、ハイパーコンペティション(参考:A kinder research culture is possible(より優しい研究文化の実現が可能))などの言葉が使用されています。また、研究成果の追求が容赦ないと語られることもあります。さらに(研究出版を含む)システムが、どのように生産されたか、とその質よりも、何がどれだけの量を生産されたかに重点を置いているのではないかという疑問が提起されています。研究成果の件数は増加の一途をたどっており、2020年に出版された論文数は、2010年の190万件から増加し、290万件に達しています(Scopus)。また、プロセス全体において極めて重要な役割を担う査読者の数は徐々に減少しており、見つけるのが難しくなっています。このような状況は、学術出版産業に過熱のリスクが生じていることを示しているようにみえないでしょうか? そしてそれが事実であるとしたら、この状況にどのように対処すればいいのでしょうか?
そこで浮かびあがるのが、研究出版社が研究者との緊密な協力関係を継続し、研究の品質と多様性、前向きな進展を支援すると同時に、研究者に対するプレッシャーの軽減に取り組むことを可能にする3つの挑戦です。第1に、論文著者と査読者に対する総合的なデジタルエクスペリエンスを大幅に改善することが可能です。シュプリンガーネイチャーでは、論文著者のエクスペリエンス(体験)と出版ワークフローをサポートする技術への投資と開発に継続して取り組んでいます。その一例としてあげられるのが、Springer Nature Article Processing Platform (SNAPP)です。このプラットフォームは、論文著者と編集者、査読者に対し、論文投稿から出版にいたるエクスペリエンスを合理化し、利用しやすくすることを目的とするものです(2022年度年次進捗状況報告書)。これまでに33,000人を超える編集者が同システムを利用しています。また、シュプリンガーネイチャーは、査読者や論文著者と協力し、135,000件を超える論文を処理しています。
第2に、論文の査読が行われている間に、研究に関するコミュニケーションを直接、迅速に行う新たな機会を研究論文著者に提供することが可能です。シュプリンガーネイチャーが無料で提供しているプレプリントサービス「In Review」では、論文著者が論文をジャーナルに投稿した時点でプレプリントとして投稿するとともに、査読を通じた論文原稿の進捗状況をリアルタイムで反映し、更新することができます。論文著者は、この業界初のオプションを利用し、コラボレーションの機会を得て迅速に情報共有できるとともに、早期に引用される可能性が高まるという利点があります。現在では、1,000誌を超えるシュプリンガーネイチャーのジャーナルが「In Review」を利用しています(学術出版協会) 。
第3に、専門的知識を特定する機能を強化することにより、新たな査読者となるグループを見つけ出し、査読を依頼できる候補となる人材の多様性を高めることが可能です。Springer Nature Reviewer Finder(査読者検索ツール)を利用すれば、論文原稿に関して研究論文著者が入力した情報にもとづき、査読者候補のリストを精密に調整することにより、関連性の高い査読者を見つけ出すために必要な時間を短縮し、効率を高めることができます。さらに、各出版社は、不適切な論文を選別して排除する新たなツールを開発しています。それにより、査読者(と編集者)の負担を選らし、健全性を高めることができます(The Next Step for the STM Integrity Hub)。
上記のようなイノベーションは、研究出版社が研究者との協力関係を維持しつつ、変革へと導く手段として利用されてきました。また、研究の品質を維持するうえで役立つものでもあります。この取り組みは、今後さらに加速していきます。各出版社は上記のようなイノベーションを基盤として可能性を広げ、独創性を高めることになるでしょう。たとえば、出版社が言語モデルを利用して査読者を招聘し、査読者が母国語で査読できるようにする方法を、そしてそれが多様性と査読者の疲労に与える影響を想像してみてください。出版社が取り組もうとしているのは、研究者にシステムが与えるプレッシャーを軽減し、過熱を抑えるということです。その実現と可能性はまさしく興奮に満ちあふれているのです。
Chris Graf(クリス・グラフ)、 Research Integrity Director(研究公正ディレクター)
クリス・グラフは2021年にResearch Integrity Director としてシュプリンガーネイチャーに入社。編集、事業開発、管理など様々な職務を通じて得た幅広い出版経験を持ち、特に研究公正を専門としています。また、出版倫理委員会のボランティアとして、共同議長を含む様々な役割で15年の経験があり、最近では研究公正に関する世界会議のプログラム委員会でも活躍しています。
クリスは、シュプリンガーネイチャーにおける研究公正の戦略とプロセスの開発と実施を推進するとともに、最高レベルの問題処理能力の維持・強化をしてまいります。
参考:【お知らせ】シュプリンガーネイチャーにおける研究公正の取り組みについて
Springboard blog(シュプリングボード・ブログ)は、オープンリサーチを推進するため、シュプリンガーネイチャーおよびそのパートナーからの最新の見解、コメント、ディスカッションを紹介するプラットフォームです。詳細は、Springboard blogのウェブサイトをご覧ください。
シュプリンガーネイチャーは、180年以上にわたり、研究コミュニティー全体へ最良のサービスを提供することによって発見の進展に貢献してきました。研究者が新しいアイデアを公開することを支援するとともに、出版するすべての研究が重要で着実であり、客観的な精査にも耐え、関心をもつすべての読者にもっとも良いフォーマットで届き、発見、アクセス、使用、再利用、および共有されるようにします。私たちは、テクノロジーやデータの革新を通じて図書館員や研究機関をサポートし、学会に出版を支援するための優良なサービスを提供します。
学術出版社として、シュプリンガーネイチャーは、シュプリンガー(Springer)、ネイチャーポートフォリオ(Nature Portfolio)、BMC、パルグレイブマクミラン(Palgrave Macmillan)、サイエンティフィックアメリカン(Scientific American)などの信頼されたブランドを有しています。詳しい情報は、springernature.com をご覧いただき、@SpringerNature のフォローをお願いいたします。
宮﨑 亜矢子
シュプリンガーネイチャー
コーポレート・アフェアーズ
E-mail: ayako.miyazaki@springernature.com
本ブログの原本(一部を除いて)は英語であり、日本語は参考翻訳です。
英語:Three challenges for future research publishers to ease the pressure on reviewers