[お知らせ] 桜美林大学の猪口孝特別招聘教授が世論調査研究を表彰するHelen Dinerman Awardを受賞
シュプリンガー・ネイチャーから出版された猪口孝特別招聘教授の世論調査研究に関する書籍が2021年のHelen Dinerman Awardの受賞対象となりました。
2021年11月18日
桜美林大学の猪口孝特別招聘教授兼アジア文化研究所所長がHelen Dinerman Award(ヘレン・ディナマン賞)を日本の研究者として初めて受賞しました。
ヘレン・ディナマン賞は、1981年にWorld Association for Public Opinion Research(WAPOR;世界世論調査協会)によって発足され、調査研究方法論への顕著な貢献を称えるものです。本賞は、30年以上にわたって世論調査に貢献されたアメリカの社会学者であるHelen Dinerman氏の科学的な業績を記念して、毎年1名または複数名に授与されます。WAPORは、世論調査の研究者や世論調査会社などで構成される最大の世論調査の組織です。
2021年のヘレン・ディナマン賞の受賞対象となったのは、猪口特別招聘教授の20年以上にわたるアジア32個の社会における生活の質の研究、および10年以上にわたる第二次世界大戦後(1945– 2019)の193個の主権国家の多国間条約参加態様の研究です。本賞では、猪口特別招聘教授の方法論的に独創的な研究に加えて、欧米で広く受け入れられているデータ分析に挑戦されていることが評価されました。
ヘレン・ディナマン賞を受賞された猪口特別招聘教授は、次のように喜びを語っています。「ヘレン・ディナマン賞受賞のお知らせが届いたのは、2021年11月初旬のことでした。そのころ、私は「学士会報」に寄稿する予定のエッセイの校正をしていました。このエッセイで私は読者にこう語りました。私は人生で2度、20年間の『ゴドーを待ちながら』(戯曲)を経験しました。私は、米国ならば国立科学財団の助成金というものを獲得したいと思っていました。ただ、20年間待っても良い知らせは届きませんでした。そして、2005年3月に東京大学を退職しました。しかし、2005年4月から助成金を獲得することができました。チームもメンバーもいないまま、助成金を受け取った私は、研究プロジェクトを遂行し始めました。アジアの32の社会での調査をもとに、書籍の原稿を書いたり、出版物を作ったりするのは、あと20年はかかるだろうと思っていましたが、このたび、ヘレン・ディナマン賞受賞という嬉しいお知らせをいただきました。
「私自身、これまでヘレン・ディナマン賞の受賞者7名と面識があり、多くを学びました。学問分野として経営学、マーケィング・リサーチ、経済学、マスメディア研究、統計学、情報工学、AI、医学、薬学、医療看護・介護なども多く、ヘレン・ディナマン賞のインパクトは大きいです。学者研究者だけでなく、実務家(世論調査を職業とする)の組織(European Society for Opinion and Marketing Research、ヨーロッパ世論・市場調査協会)と共同で各年会議を共催していることもあります。Gallup International などと、共催で毎年末、その年で一番重要だった出来事に焦点を当てた各国を代表する世論調査会社が参加し、世界世論調査を実施しています。これらの仕組みと運営はこの組織を年々拡大し、そのインパクトを強くしています。私自身、これらの方々の多くの業績の肩の上でなされてきたことをよく承知して、これからも後世代の方々にシェアできる研究を続けたいと思っています。日本でこの分野で大きな励みになったのは、国立統計数理研究所の故林知己夫先生と東京大学 新聞研究所の故池内一先生です。同時に多くの参加者、とりわけ共著者のDoh Chull Shin氏、藤井誠二氏、徳田安春氏、Le Thi Quynh Lien氏からは多くのことを学びました」。
猪口孝特別招聘教授のヘレン・ディナマン賞の表彰状
© WAPOR 2021 (画像元:WAPOR Facebook page)
WAPORは、世論分野への生涯にわたる貢献を称え、モロッコのカサブランカで2021年11月に行われた授賞式で「ヘレン・ディナマン賞」を猪口孝特別招聘教授に授与しました。猪口孝教授の受賞対象となった出版物は、次のとおりです。
生活の質の研究
- Doh Chull Shin and Takashi Inoguchi, eds. (2010) The Quality of Life in Confucian Asia: From Physical Welfare to Subjective Well-being, Dordrecht: Springer.
- Takashi Inoguchi and Seiji Fujii (2013) The Quality of Life in Asia: A Comparison of Quality of Life in Asia, Dordrecht: Springer.
- Takashi Inoguchi and Yasuharu Tokuda, eds. (2017) Trust with Asian Characteristics: Interpersonal and Institutional, Dordrecht: Springer.
- Takashi Inoguchi (2017) Exit, Voice and Loyalty in Asia: Individual Choice under 32 Societal Umbrellas, Dordrecht: Springer.
- Takashi Inoguchi (2023年出版予定) The Typology of Asian Societies: Bottom Up Perspective and Evidence-Based Approach. Singapore: Springer Nature
多国間条約参加態様の研究
- Takashi Inoguchi and Lien Thi Quynh Le (2020) The Development of Global Legislative Politics: Rousseau and Locke Writ Global, Singapore: Springer Nature
- Takashi Inoguchi and Lien Thi Quynh Le (2021) Digitized Statecraft in Multilateral Treaty Participation: Global Quasi-Legislative Behavior of 193 Sovereign States, Singapore: Springer Nature
- Takashi Inoguchi and Lien Thi Quynh Le(2022年出版予定)Digitized Four Asian Regionalisms: Emerging Pax Consortis in East-West Rebalancing. Singapore: Springer Nature
それぞれの研究の特徴
- アジア32個の社会における生活の質の研究
A) アジアの「生活の質」を面接で、32カ国、35言語を使って行った大規模な6万人の回答者で調査(世界初の調査)。
B) 必ずしも欧米人とは同じような視角からは見ていないアジア人の回答者を取り上げ、欧米とアジアの綿密なデータ分析比較で挑戦。 - 第二次世界大戦後(1945―2019)の193個の主権国家の多国間条約参加態様の研究
A) 多国間条約参加態様を600の多国間条約参加について、批准と調印の年差を条約の政策分野と批准国の地域を絡ませて、分析した方法は国際政治でも国際法でも誰もやってこなかった独創的方法を使っている。
B) 多国間条約がクローバリゼーションの時代と言われているわりには、多国間条約参加の態様について、網羅的に見ず、個々の事例についてコメントされることは少なかったところに、証拠を基盤にした実証で新しい分析結果(たとえば米国の多国間条約参加は北朝鮮の多国間条約参加をそれぞれの国際参加年数で平均を出すと、後者が多いこと)を挙げている。
シュプリンガー・イーブックス 著者の声:東京大学名誉教授 猪口 孝 先生
猪口孝特別招聘教授が編集主幹を務めるSpringer Natureの英文書籍シリーズ
リンク
WAPOR 74th Annual Conference Awards Ceremony (YouTube)
ヘレン・ディナマン氏は、戦時中のアメリカの世論調査を専門としていた社会学者です。これまでのヘレン・ディナマン賞受賞者は、世界的に著名な学者や世論調査員の多くが受賞し、猪口孝特別招聘教授の分野に近い方12名は次のように大きく4つのカテゴリーに分けることができます。
<これまでのおもな受賞者(受賞年)>
- 統計学者や心理学者:Louis Guttman氏(1988)、Percy H. Tannenbaum氏(1987)、Hans L. Zetterberg氏(1999)、Willem Saris氏(2009)
- 社会学者:Juan J. Linz氏(1993)、Seymour Martin Lipset氏(1997)、Robert K. Merton氏(2000)
- 政治学者:Phillip E. Converse氏(2003)、Sidney Verba氏(2004)、Ronald Inglehart氏(2014)
- 地域の世論調査創設者:Mahar Mangahas氏(2001)、Marta Lagos Cruz-Coke氏(2008)
World Association for Public Opinion Research は、1947年に世論調査に関する非営利団体として設立されました。世論調査は、マーケティング調査(ビジネス)、投票調査(民主主義)、意思決定・動機づけ調査(心理学)、メディア調査(ラジオ・テレビ・SNSなど)、情報・戦略調査(戦争・外交)など、多岐にわたっています。1981年には、それぞれの分野が相互に影響し合うことで、各分野の発展に寄与することができるようになっていました。米国では、1920年代にGeorge Gallup氏(専門:民主主義とマーケティングの研究)が始まりました。その後、第二次世界大戦が勃発し、戦争への動員や兵士のモチベーションへの関心が高まりました。第二次世界大戦後は、社会科学や行動科学の進歩に伴い、世論に対する学術的な関心が広がり、深まっていきました。WAPORの強みは、実務家(専門の世論調査員)と学術関係者の両方が参画していることにあります。
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